「食べないと死ぬなんて思い込み」保護者たちが危険に気づいた頃には遅かった…教師から生徒への“悪意なき洗脳”
栄養学の教師として赴任してきたノヴァク先生が、健康と能力アップのために提唱するのは「意識的な食事」法。これを実践し、効果を実感した生徒たちは、どんどんこの教えにのめりこんでいく。“食べないと死ぬ、なんて単なる思い込みよ”そう言って微笑むノヴァク先生。その危険性に保護者たちが気づいた頃には、時すでに遅く――。 【写真】この記事の写真を見る(3枚) “食”と“洗脳”をテーマにしたユニークな映画『クラブゼロ』。監督・脚本を手がけたジェシカ・ハウスナーさんに、本作のコンセプトを聞いた。 「人が人を操るということ。それが過激化した末にどうなるかを描きました。“食”を主軸に据えたのは、食べるという行為は、とても個人的なものであると同時に、社会的なルールに強く縛られる行為でもあるから。人間としての根源を持ちながら、社会の中で生きる私たちを象徴的に表す要素になると思ったんです」 ハウスナーさんの前作『リトル・ジョー』は、人を幸せにする香りを持つ植物が登場するスリラー。人間にとって幸せとは? 客観的事実と人々が望む真実の関係は? を問う作品だった。これは今作にも共通すると指摘すると、笑って頷いた。 「そう、実のところ私は、毎回、同じ物語に繰り返し挑んでいるのかもしれません(笑)。つまり、“見えざるモンスター”に。じゃあ、それで何を伝えたいのかと言えば、いかに私たちが正しいことと間違ったことの間の世界で生きているのかということです。多くの人がそこから目を背け、できれば自分だけは常に正しい側に立っていたいと願っている。でも実際はそうはいかない。それを突きつけたいんです」 今回、その“見えざるモンスター”を導く教師ノヴァクを演じるのは、映画『アリス・イン・ワンダーランド』(10)のアリス役で知られる女優、ミア・ワシコウスカさんだ。 「ミアは、少女のような純粋性とその裏に隠れた狂気、どちらも感じさせてくれる俳優。一見、善人のよう。実際、悪意はなくて心からその教えを信じているだけ――そんなノヴァクに、ミアはぴったりでした。私たちはこの作品のために、さまざまなカルトの関係者に会って話を聞きました。そんな彼らをヒントにして作り出したのが、ノヴァクです」 こう聞いていくと、非常にコンセプチュアルな作品だが、エンターテインメントとして楽しめる工夫にも満ちている。 「これまでの作品から学んだことを最大限活かしています。寓話性を高めるために色使いはポップかつキャッチーに、衣装には特にユーモアを込めました。そして音楽はよりエモーショナルに。もちろんメッセージも受け取ってほしいけれど、まずは楽しんで観てもらえたらと思います」 Jessica Hausner/1972年生まれ。オーストリア・ウィーン出身。ミヒャエル・ハネケに師事し、2001年に長編映画監督デビュー。09年『ルルドの泉で』がヴェネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞ほか5部門を受賞。世界的に活躍が期待されている監督のひとり。ほかに『リトル・ジョー』(19)など。 INFORMATIONアイコン映画『クラブゼロ』 12月6日全国公開 https://klockworx-v.com/clubzero/
「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年12月5日号