非正規社員への「賞与・退職金」の不支給は問題ない? 最高裁2020年判決の誤解を晴らす
退職金不支給の事件(メトロコマース事件)
退職金不支給の事件(メトロコマース事件)では、地下鉄の売店業務に正社員(無期契約)、契約社員(有期契約)がともに従事していました。 この事件の契約社員2名は2004年に1年契約で採用され更新を繰り返し、2014年、15年に65歳で定年退職しましたが、退職金が払われませんでした。一方で正社員には、計算基礎の基本給に勤続年数に応じた支給月数を乗じて退職金が支払われていました。 最高裁は次の事情から、この事案について「契約社員に退職金がないことは不合理な待遇差ではない」と判断しました。 正社員には配置転換がある。不在販売員の代務、売店総括、トラブル処理など業務内容・責任の程度の違いがある。退職金は職務遂行能力・責任の程度に応じた賃金の後払い的性格があり、人材確保・定着のために支給される。契約社員には上記事情がない。しかも試験制度により段階的に正社員に登用される道もある。
非正規社員でも賞与退職金がもらえる可能性はある
これらの事件で、最高裁が非正規社員に賞与・退職金不支給を問題なしとしたのは、個別事情を詳しく判断した結果です。下級審では不支給は不当という判決も出ています。退職金の事件では、最高裁でも1人の裁判官の反対意見があったことから、当時でもかなり微妙な問題であったと思われます。 現在では「同一労働同一賃金ガイドライン」という厚生労働省の指針があり、賞与について次の「問題となる例」が挙げられています。 「賞与について、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給しているA社においては、通常の労働者には職務の内容や会社の業績等への貢献等にかかわらず全員に何らかの賞与を支給しているが、短時間・有期雇用労働者には支給していない。」 退職手当については、指針でこのような具体的な問題例等は示されていませんが、「不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められる」と明記されています。 この指針から見れば、現在では非正規社員でも賞与や退職金がもらえる可能性はじゅうぶんあると考えられます。