謎に満ちた「カメの起源」(中) 三畳紀に見られる不思議な甲羅
三畳紀カメ進化の複雑性1「オドントケリス」
現生の全ての亀は口の中に歯を持っていない。しかし三畳紀のカメの化石はいくつも歯を備えていたことを示している。中国山東省の孔子廟にある亀の像のように。(2016年著者撮影) 2008年にLi等によって発表された三畳紀後期(約2億2000万年前)の「オドントケリスOdontochelys(=「歯をもつカメ」の意)」は、プロガノケリスの「最古のカメ」という称号を約100年ぶりに覆した存在だ。ちなみにこの称号は、前回紹介したイオリンコケリスが今年(2018年)に発表されるまで続いた。 注:Li, Chun; et al. (2008). “An ancestral turtle from the Late Triassic of southwestern China“. Nature. 456 (7221): 497-501. 中国で発見されたその貴重な全身骨格は、このカメがなんと「腹甲だけ」を備えていたことを示している。背中側は甲羅の跡がまるで見られず(おそらく)他の爬虫類と似たようなウロコ状の皮膚で覆われていたようだ。 もしこのオドントケリスが最古のカメだとすると、亀の起源に関していろいろ興味深い問いかけが浮かんでくる。まずどうして「腹甲から先に甲羅が出現した」のだろうか? 原生種に見られる頑丈な装甲車のような甲羅は、(当然)身を守る「プロテクション(保護)」の役目をはたしている。しかし腹側にしか甲羅を持たないオドントケリスには、何かまるで別の役割があったと考えてもおかしくないはずだ。 オドントケリスの大まかな体つきやすらりと伸びた四肢、そして化石の見つかった堆積層などのデータをもとに、研究チームは「水中生活」を行っていたという可能性を述べている。(いくつかのサイトでこのカメが水中にたたずんでいる復元画を見ることができる。) もしかすると亀の甲羅はもともと水中を移動するための、進化上の斬新なデザインだったのだろうか? 冷たい水の中で体温を調節するのに役立ったのだろうか? とりあえずこうした思い付きにも似た仮説がたてられるが、はっきりしたことは私の知る限り分かっていない。 前回紹介したイオリンコケリスも水生だったと考えられている点が、個人的に非常に興味深い。カメの起源は水の中でその幕を開けた可能性もあるのではないだろうか? すると先に紹介したプロガノケリスは陸生だったようだが、どう説明すればいいのだろうか? 水生から陸生へと逆戻りしたのだろうか? それとも二つの中国の水生(だったと考えられる)カメは、進化プロセスにおいて亜流にあたる特殊な習性を備えていたのだろうか? 三畳紀のカメの仲間が水陸両方の環境で生活していた可能性も捨てきれないだろう。(そういえば現生のたくさんの亀がこうしたライフスタイルをもっているようだ。) オドントケリスのもう一つの重要な特徴は、その名前(=「歯をもつカメ」の意))に見られるように「歯を備えたアゴ」だ。現生の亀の口の中をのぞく機会があれば是非改めて観察していただきたい。全ての亀の種は(鳥のように)歯がまるで見られず、いわゆる「口ばし」を備えている。 歯を持つカメの存在は先に述べたプロガノケリスにもあてはまる。どうやら知られているほとんどの三畳紀のカメの仲間が、多くの他の爬虫類のようにたくさんの細かな歯を持っていたようだ。一連の事実は初期のカメが「肉食」だったことを強く示している。 しかしどうしてカメはその進化上、歯を失くしたのだろうか? (そして古代の中国人はどうして亀の像に歯をつけたのだろうか?)