プロ転向した坂本怜は「身体ができればおのずと結果はついてくる」岩本功ジュニアデビスカップ日本代表監督【テニス】
――先ほどのお話で『教育』というワードが出てきましたが具体的にはどういうことでしょうか。 「今の時代、子供たちはスマホをずっと使用しています。時差の関係で日本にいる友人からのメッセージが、現地時間の夜中に連絡があることもあります。私は『睡眠』という成長の機会を最優先に考えると、この前のオランダ遠征や次回の遠征でもそうですが、若い選手からは夜7時30分以降はスマホを預かるようにしています。その間に洗濯をしたり、ストレッチをする時間に充てる。ゲームをしたり、スマホがあると睡眠不足になったりします。(オンラインで授業などできる可能性もあるスマホを)全否定する時代ではありませんが、睡眠の重要性を子供達に理解してもらうということも教育の一環。それ(スマホ)が無くてもできるよというところを体験させます。朝も(練習で)早いし、1日が長いので。テニスのために賭けているので、そこはやっぱり彼らも意識を高く持ってほしい」 「ただジュニアラストイヤーの(坂本)怜や(本田)尚也は預からない。なぜかと言うと、もう大人の世界に移行していくところだから。その前(の年代)は教育として(スマホを預かることを)している。あとは、自分でやっていって(ツアーで)生きていく中で、自分に返ってくるわけですから」 「基本はそこが1つ。そしてこれまでと変わっていないところが『挨拶』です。海外に行っても他の国のコーチとか選手に挨拶して喋ったりすること。私にはやってくるが、大事なのは各国の代表監督やヘッドコーチなどに(自分を)覚えてもらうことです。もし将来プロになれば(英語で挨拶をすることにより)いろいろな可能性も広がります。『挨拶』をすることは、コミュニケーション能力を高め、(英語で)話すということがそこから広がっていきます。選手自身が『もっと英語を話せるようになりたい』と感じたりすることで何かのきっかけになるかもしれません。よくあるのが海外に出て日本人だけで固まるとか携帯をずっといじっているとか。そういうことがないように努めています。日本人はシャイなので(英語で)他の国の人と喋ろうとしない傾向にあります。インドネシア遠征でもトレーニングで外国人の選手の練習相手を探してくるようにと課題を与えます。選手にはプロへの第一歩としての心構えとして伝えています」 「時間を守ることもそうです、守らないというわけではないのですが、寝坊などはあります。あとは『食事』。ツアーを回るということは食べることにより体力を維持する基盤を作って強化していかなければなりません。私が引率の遠征では基本的に目標として体重を増やして日本に帰ってくることを挙げていて、(トレーニングなどは厳しいですが)体重は落とさないよう管理しています。選手が個人で遠征をしているケースの中で体重や体力も落ちて帰ってくる傾向がよくあるので、そこを含めて選手には伝えるようにしています。もう一つは『自分に限界を作らない』ことです。よく『無理です』と自分で勝手に決めてしまう子がいます。それは自分のレベルの話であって、だからコーチやトレーナーがプッシュするためにいるので、(世界で戦うために)最終的に自分に限界を作らないということは大事です」 ――大会期間中、勝ち上がっていく時もトレーニングはするのでしょうか。 「様子を見ながらですが、普段の遠征の時も強度は下げながらも継続してトレーニングは続けています。でも『体力』は絶対必要なところです。フィジカルが強くないと勝てないし、トーナメントを勝ち進んでいけません。大人になった時に(グランドスラムで)2週間体力が持たないといけません。それ(厳しいトレーニング)は12、13歳ではしないですよ。16歳ぐらいから徐々に様子を見ながら始めています。合宿でも朝から走り込んだりしています。キツいかもしれませんが、それが当たり前になったらワンステップ上がった証拠になるわけです」 ――皆さんに紹介できる範囲でメニューを教えてもらってもよろしいでしょうか。 「合宿の際には専門のトレーナーにサポートしてもらえるので、基本的には選手によって必要なものをやるため全員が同じということはありません。体幹も重要な要素なのでトレーナーと相談し、個人の能力と照らし合わせて進めていますが、具体的な例で挙げるとするならば、基本は「インターバル」などがあります。5周(テニスコート1面)のタイム走では、1分何秒で行くところを何セットかやったり、走れなかったらもう一回とか。NTCだったら、外を3周をします(大体4分以内ぐらい)。それだけでは足りないので体幹トレーニングをしますが、3、4日後にはキツいと思うぐらいの内容で、限界を作らせないように取り組んでいます」 「普段はやらないので、その時にやれるように。そしてストレッチですね。当たり前のようにやってほしい。プロになってからでは遅すぎます。今のうちに早く習慣にすることが大切です。自分に返ってきますし、自分の夢に向かってやっていることですから」 ――世界はますますテニスがパワフルになってきている印象です。 「だから、フィジカルが…ということになります。テニスのスタイルはいろいろありますが、基本は体力がないと(世界で戦うには)無理ですね。今のうちからそういうことを意識させておいて、あとはそれをやるだけ」 ――ボールを強く打てる要素にはどんなことがありますか。 「体幹も重要ですし、体の使い方、下半身が強くないと地面を蹴ることができません。だからこれだけというのはなく、それがあって動けなければいけません。当然、全部の要素がつながっていることが必要となります」 ――(全米オープンジュニアダブルス優勝後)今大会の坂本選手の総評をお願い致します。 「ジュニアの試合はこれで最後となりました。ダブルスは優勝できて良かったと思います。残念なのはシングルスでしたが、相手(ラファエル・ホダル:全米オープンジュニア優勝後、スペインデ杯にチームに同行しアルカラスと練習)のプレーも良かったですし、こういう舞台を経験したので後は大人の世界(ツアー)で逞しく、フィジカルの強化も意識して今後も継続してほしい。今日の夜に出発(ニューヨークからラスベガスに移動)し明日は試合です。これが彼が今からやっていかなければいけない世界でなんです」 ――貴重なお話をありがというございました。
知花泰三