「セルフイメージ」の働きとリーダー
セルフイメージの働き
では、私たちはなぜ「セルフイメージ」を創り出しているのでしょうか? 結論からいえば、それは「一人ぼっち」にならないためです。生物としての人間にとって、今日も明日もこの社会で生きていくこと、生存していくことは最大の目的です。そしてそのためには、他者との協力関係、つまり「関わり」は大事なリソースです。そこで、他者との何らかの関わりを担保するために役に立ちそうな「セルフイメージ」を創り出し、その「セルフイメージ」が機能していれば、人との関係性がもてると思っています。たとえば、私にとっての「穏やかな人」という「セルフイメージ」もそうです。つまり「セルフイメージ」とは、私たちの生存戦略なのです。 「セルフイメージ」は、生まれてからその人が成長していく過程で創られていきます。その言動をとることで周囲から認められた、受け入れられた、または、そのあり方でいることでうまくいっていると思う「あり方」を、結晶化させたものです。 とはいえ「セルフイメージ」は、意図的に選択され、構築されていったものではありません。私たちが、母国語を周囲との関わりの中で無意識的に修得していったのと同様、日々の周囲との関係性の中で、本人にも意識されないうちにビルトインされていったものです。 そうして創り上げてきた「セルフイメージ」ですが、私たちは知らず知らずのうちに、それが壊れないように、傷つかないように気をつかっています。なぜなら、それが壊れてしまったら、周囲との関係性がうまくいかなくなり、生存が危ぶまれるかもしれないからです。 だからこそ、先にも述べたように、自分が自分のセルフイメージに反するような言動をとったり、他人が自分のセルフイメージを損なうようなことを言ったりやったりすると、あらゆる手段を使って、自身のセルフイメージを守る行為に奔走します。
セルフイメージとのつきあい方
たとえば「有能な人」というセルフイメージをもっているリーダーが、失敗をしたとします。心の中で「あの時は、疲れていたからだ」「誰がやっても、難しい案件だった」と言い訳をする。時には、失敗したことを周囲のせいにすることで、自身の「イメージ」を守ろうとします。このプロセスは、ほとんど、無意識でオートパイロット状態で実践されます。こうして本来、他者との関係性を保つためのものだったはずの「セルフイメージ」ですが、他者との関係性よりも「セルフイメージ」そのものを守ることが優先されるようになっていきます。 気をつけなければならないのは、リーダーが自身の「セルフイメージ」とその働きに無自覚であればあるほど、言い訳や他者に責任を押しつけるという反応が自動的に起こってしまうことです。そうなってしまうと、そのリーダーはリーダーとしての役割を全うすることは困難になるでしょう。 これはリーダーに限った話ではありません。私たちが知らず知らずのうちに他者との関係よりも、自分の「セルフイメージ」を守ることを優先してしまうと、他者との関係がうまくいかなくなることがあります。 大事なのは、自身が大切にしている「セルフイメージ」に気づくこと。そして、その「セルフイメージ」を守るために、日常的に自分が何をしているかを「止まって観る」ことが必要です。しかし実は、その作業を自分一人で行うのは難しいものです。そこで、自分を振り返る対話が必要になります。 対話の相手と「セルフイメージ」の一連の働きとプロセスを丁寧に「観る」ことで「セルフイメージ」とのつきあい方に、余裕をもつことが可能になります。そして、そのゆとりが、自身の振る舞いに自覚的になる契機となります。
【著者】 市毛智雄 株式会社コーチ・エィ 国際コーチング連盟マスター認定コーチ 一般財団法人 生涯学習開発財団認定マスターコーチ
市毛智雄(コーチ・エィ)