「お店」と「家庭」のフランス料理は違うモノ?食べごろの素材をまず並べ、鮮度が関係ないものは違った形のベストな状態で食べるのが<フランス料理>
外務省発表の『海外在留邦人数調査統計』(令和4年度)によれば、フランスには36,104人もの日本人が暮らしているそう。一方、40代半ばを過ぎて、パリ郊外に住む叔母ロズリーヌの家に居候することになったのが小説家・中島たい子さんです。毛玉のついたセーターでもおしゃれで、週に一度の掃除でも居心地のいい部屋、手間をかけないのに美味しい料理……。 とても自由で等身大の“フランス人”である叔母と暮らして見えてきたものとは? 【書影】中島さんが”等身大のフランス人”叔母とパリで過ごして気づいたことを綴ったエッセイ『パリのキッチンで四角いバゲットを焼きながら』 * * * * * * * ◆日本で食べるフレンチは「高級店の形」? フランスに行って知ることは多い。フレンチ=フルコース、という定番の思い込みがあるけれど、フルコースという食べ方の本来の意味も、今回来てみて、そういうことなんだ、とわかった。 日本だと、子供はお祝いの席などで、フォークとナイフの使い方を教わりつつ、フレンチのフルコースを初体験することが多い。私も子供の頃から、たまにだけどホテルやレストランの厳(おごそ)かなムードの中でフランス料理を食べることがあった。 けれど、小学生で初めてフランスに行ったとき、その日本のフレンチと叔母の料理は、まったくくっつかなかった。日本で食べるフランス料理となぜ違う? と子供ながら思ったものだ。 「レストランで食べるお料理と、家庭のお料理は違うのよ」 私が問うと母は返した。日本で食べるフレンチは「高級店の形」だという。それが本当かどうか確かめたいから、フランスにいるうちに高級店に連れて行って欲しい、と母に頼んだけれど、却下された。
◆「お店のフランス料理」も「家庭のフランス料理」も同じ 非常に心残りだったので、今回の旅行で、もういい大人だから自腹で確かめてみた。 いとこのソフィーおすすめの、ワイン販売会社が営んでいるというパリの洒落たレストランで、本場のフルコースを初体験。確かに、日本のフレンチレストランと同じように、厳かに料理が運ばれてきて、リッチで、その形態に大きな違いはなかった。 でも、子供の自分に、今私はこう言って訂正したい。「お店のフランス料理」も「家庭のフランス料理」も同じです。大きな違いはありません、と。 なぜそう思ったかというと、ソフィーが子供たち(五歳と八歳の男の子)に食事をさせているのを見ていたら、それがちゃんと「フルコース」になっていたから。 ある日のメニューでは、彼女は子供たちに可愛らしい二十日大根みたいなものを渡して、食べさせるところから食事をスタートさせていた。これはフルコースで言うところのオードブルだ。 二人がそれを食べ終えると、野菜スープを注いだ小さなカップが置かれて、子供たちはゆっくりそれを楽しむ。飲み終わったら次はメイン、魚の切り身をのせた玄米のリゾットのようなもの。そしてデザートに甘いヨーグルトみたいなものを食べて、終わり。 テーブルに着いた男の子たちが、まずは葉付きのちっちゃい大根を握って、生のまま楽しそうにかじるのを見て、「オードブル」というものはフレッシュなものを見て、食べて、食欲を盛り上げていくものなんだなぁ、と今さら知った。