不登校経験者8割、人気の訳は「ぬるい学校」の真意 立花高校、「学校破壊」で自由度高める意義とは
志願者が殺到する「学校らしくない学校」とは?
この10年、増え続けている小中学校の不登校児童生徒数。文部科学省の2022年の調査では29万9048人と過去最高を更新した。こうした中、約30年前から不登校生徒の自立支援に力を入れてきたのが立花高等学校(福岡県福岡市)だ。同校には近年、定員以上の入学希望者が殺到するが、その多くが不登校経験者だという。なぜ、不登校を経験した子どもやその保護者は同校を目指すのか。学校長の齋藤眞人氏に話を聞いた。 【画像】職員室は昼休みも生徒たちでにぎわっている 立花高等学校には近年、福岡県内だけでなく、関東圏など遠方からも受験者が集まる。その8割が不登校経験者だ。募集定員は150名だが、ここ数年は専願入試の時点で200名を超え、9月の後期入学者の試験を実施できていないという。生徒から「校長ちゃん」の愛称で親しまれている学校長の齋藤眞人氏は、志願者が殺到する理由について、こう分析している。 「1つは、不登校の子の選択肢が少ないこと。近年、通信制高校やフリースクールなど進路の選択肢は以前より増えています。しかし、出席日数が足りないと合格の対象とならない全日制の高校はまだ多く、本校のように不登校生の自立支援を掲げる全日制高校は珍しい。そのため全日制を希望する子は、必然的に本校が候補になるのでしょう。もう1つの理由は、本校が『学校らしくない学校』であること。『こういう学校なら行きたい』と思う子が増えているのだと思います」 「学校らしくない学校」とは、どういうことか。 同校には1957年の創立以来、受け継がれてきた教育理念がある。それは、創設者の安部清美氏の教育格言「一人の子を粗末にする時、教育はその光を失う」というものだ。 1970年代後半に全国から中途退学者を受け入れ始めた同校では、1994年に学内不登校委員会を設置。1996年には登校が難しい生徒のために教員が放課後に公民館などに出向く学校外教室や、適応指導学級(現サポート学級)を設けるなど先進的な取り組みを行ってきた。 さらに2003年には全日制・単位制を導入し、必修を含む77単位以上を修得して3年以上在籍すれば卒業できるようにした。学年で教育課程を区切っていないので留年という概念がなく、学力に応じた基礎学習のサポートや、生徒たちの希望を基に展開している「ワールド」という授業などもあり、生徒たちは自分のペースで興味や関心に応じた科目を学べる。約30年にわたり、不登校生徒の自立支援に力を入れてきた同校ならではのシステムだ。 「長らく私が訴えていることですが、学校はもっと柔らかくあってよいと思います。だから私たちは、生徒さんが安心して過ごせることを何より大切にしています。校則はほぼありませんし、学校という価値観で語れないほど同調圧力がなく、先生も高圧的な接し方をしません。個々の特性に配慮した環境も整えています。本校の教育システムはそうしたマインドそのもの。誤解を恐れずに言えば、“ぬるい学校”なんです」 ただし、生徒の自己選択、自己決定が認められているというのは、裏を返せばリスクを背負うのも生徒だということ。齋藤氏はこう続ける。 「例えば本校では、授業に出ない選択も認められますが、休んで出席日数が足りなくなったらその結果を背負うのは生徒さんだと考えています。つまり“ぬるい学校”と言ったのは、甘い学校というわけではなく、自由度が高い学校だということ。そんな本校の雰囲気に憧れて入学を希望する子が多いのですが、それだけ今の学校は圧が強いということではないでしょうか」