「田舎暮らし」の断片(2)── 発想の転換が「八ヶ岳山麓で趣味三昧」実現
リゾート会社の現地採用社員に
家を先に確保し、仕事探しはその後でゆっくり行った。「不動産か保険の仕事なら、どこへ行っても必ず見つかる」と、奈帆子さんは茅野市での再就職に絶対の自信を持っていたからだ。そして、大手リゾート会社が運営する大規模な別荘地が蓼科にあることを知ると、すぐに東京の本社へ電話して直談判。希望通り転勤のない「地域社員」として採用された。その別荘地で働く社員はいずれも東京からの転勤組で、奈帆子さんのような“地元”の経験者・有資格者の応募は、会社としても渡りに船だったようだ。 奈帆子さんが携わるのは、2400世帯ある大規模な別荘地での販売・管理の仕事。ちょうど団塊の世代のリタイアの時期と重なり、売れ行きは絶好調、かなり忙しいという。山で汗だくになるような別荘地内での雪かきなどの仕事もある反面、東京や大阪への出張も多く、都会に“ホームシック”を感じる暇もない。「美しい自然の中で四季を感じながら仕事をするのは、最高に贅沢だと思います。素直に『わーきれいだなー』と自然に感動するなんて、今まではなかったことですから」。 「趣味人」のご主人の方も、移住した秋からこの冬までの数ヶ月間は、多忙を極めたようだ。山に来たら写真や登山、野菜作り、料理と新たに始めたいことはたくさんあった。だが、まずは新居の住環境を整えなければならない。庭に乱雑に生えている木を抜かなければ家庭菜園はできないし、リビングに据えた待望の薪ストーブを使うには、冬になる前に薪を確保し、それを保管する薪棚を作らなければならなかった。実際に「主夫」をやってみると、男性の体力でしかできないような「労働」が山ほどあったのだ。
妻が外で働き、夫が家で労働や趣味
「いずれも初めての経験ですが、失敗を重ねながら頑張っています。色々と無駄な道具を買ってしまったりね」。自分のものを買うためにアルバイトを探そうとしたこともあるが、「せっかく来たのにしばらくは趣味の生活を楽しみなさい」と、かえって奈帆子さんに叱られるという。 庭先で仕事をしていると、ご近所さんに「なんでも自分でやるのねえ」と、褒められることもしばしばだ。サラリーマン時代はベテランの部類に入っていたけれど、ここでは町内会の行事などに参加しても、常に最年少だ。「来春から、お隣さんに誘われて近くに畑を借りる予定です。安納芋でも作ろうかな」。中村さんの「田舎暮らし」はあくまでマイペースで自然体だ。 それを支えるのは、ちょっとした発想の転換であろう。「妻が外で働き、夫が家で自営業や労働、趣味をする」。言葉にすれば簡単そうだが、実行できる人はそう多くはないはずだ。現役世代が今の日本で、「田舎暮らし」というこれまでと違うライフスタイルを実現するためには、様々な局面でこうした「発想の転換」が求められると思うのだ。それはもちろん、受け入れる「田舎」の側にも言えることであろう。 ・連載『田舎暮らし』の断片…全4回