がんや終末期だけではない「緩和ケア」、早期導入で苦痛を予防し過剰医療を減らす、患者・家族に信頼される「かかりつけ医機能」の拡充を
「緩和ケア」に対応する英語はpalliative careであり、ラテン語で「マント」を意味するpalliumに由来すると言われている。11世紀ヨーロッパにできた施設ホスピス(「もてなし」を意味するラテン語hospitiumに由来)で巡礼者や傷病者をあたかもマントで暖かく包むように庇護しケアしていたことが、英国のロンドンでセント・クリストファーズ・ホスピスが設立された1967年以降の現代ホスピス運動発展の過程でそのケアをpalliative careと呼ぶことにつながったようだ。 24年1月の『家族ががんと診断されたら 付き合い方を家庭医が解説 かける言葉は?どう介護するか?勝ち負けのない生き方』でも紹介した国立がん研究センターが運営する公式サイト『がん情報サービス』にも、緩和ケアについて書かれたページと冊子が掲載されている。
緩和ケアはいつ始めるのか
以前は、がんが進行して、それを治癒させる有効な手術・抗がん剤・放射線療法などの治療手段がなくなり、増悪するがんによる痛みを「緩和」するために麻薬など強い鎮痛薬を使う段階のケアのみを「緩和ケア」と考えている人が保健医療関係者でも少なくなかった。N.C.さんが抱いていたような、死を迎える施設としてのホスピスのイメージである。 しかし今では、『がん情報サービス』の資料にも「緩和ケアは、がんと診断されたときから始まります」と書かれているように、苦しみを予防し軽減するためにも、問題を早期に発見して正しく評価して対処することが推奨されている。 先ほど紹介したWHOのウェブサイトにも、「緩和ケアは、病気の進行の早い段階で考慮することが最も効果的である。早期の緩和ケアは患者の生活の質を向上させるだけでなく、不必要な入院や医療サービスの利用を減らすことにもつながる」と書かれている。 家庭医の視点からは、緩和ケアはがんや生命を脅かす病気が診断されるより前から始めたい。例えば、がんがないか検診(スクリーニング)を受ける場合、あるいは何らかの症状があって生命を脅かすかもしれない疾患がないか検査をする場合には、検査の有益性と害についての説明に加えて、もしがんや生命を脅かす病気が診断された時に家庭医は何ができるかを伝えて、患者がどうしたいかを前もって考えておく機会を作りたい。 心の準備をしておくことと、「悪い知らせ」があったとしてもそれが患者・家族にとって意味することや最善の対処方法を家庭医と相談できるとあらかじめ知っておくことは、患者・家族の安心につながり、精神的ショックや苦しみを緩和できる。