トリッキーな設定で読ませる〈館四重奏〉シリーズ第三弾。すべてが繋がる過程が痛快無比!(レビュー)
阿津川辰海の『黄土館の殺人』は、少年たちが陸の孤島と化した館で連続殺人事件に遭遇する〈館四重奏〉シリーズの第三弾。ユーモアたっぷりの短篇から精密な本格ものまで発表している著者だが、本シリーズは大仕掛けなトリックと、キャラクターの魅力で読ませ、本作単独でも十分堪能できる。 シリーズの主人公は探偵の助手役、田所信哉。だが本作の第一部の語り手は、世界的アーティストの土塔雷蔵に復讐するため、彼の住む崖に囲まれた「荒土館」に向かう男だ。道中、地震による土砂崩れで目の前の道が閉ざされてしまう。途方に暮れ、頓挫した殺人計画について思わず呟いた時、土砂の向こうから女の声が。正体不明のその女は自身も人を殺しに向かうところだったといい、男に交換殺人を提案。男もそれを受け入れて町に戻るが、そこで偶然出会ったのが、葛城輝義という大学生。このシリーズにおける名探偵である。
一方、土砂崩れのために孤立した荒土館には、田所と友人の三谷がいた。知人女性が雷蔵の長男と結婚することとなり館に招かれていたのである。やがて館内で連続殺人が発生。頼りになる葛城不在のなか、田所たちは懸命に謎を解こうとする―と、なかなかトリッキーな設定だ。殺人だけでなく、次々起きる奇妙な出来事がすべて意味を持ち、有機的に繋がって謎が解けていく過程は実に痛快。 このシリーズでは葛城の他にずば抜けた推理能力を持ちながらも探偵を辞めた女性も登場、フィクションの中での探偵というものの役割について考えさせられるのも魅力。
ちなみに第一作『紅蓮館の殺人』(講談社タイガ)では山火事で孤立した館、第二作『蒼海館の殺人』(同)では、大雨のため洪水が迫る館が舞台となっている。著者によると、「地水火風」の四要素をモチーフにした四部作なのだそうだ(土=地震を扱った第三作の刊行がこのタイミングとなったのは不幸な偶然だ)。残るモチーフは「風」なわけだが、一体どんな設定を考えているのか、今からもう楽しみだ。 [レビュアー]瀧井朝世(ライター) 1970年生まれ、東京都出身、慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経てライターに。WEB本の雑誌「作家の読書道」、文春オンライン「作家と90分」、『きらら』『週刊新潮』『anan』『CREA』などで作家インタビュー、書評、対談企画などを担当。2009年~2013年にTBS系「王様のブランチ」ブックコーナーに出演。2017年10月現在は同コーナーのブレーンを務める。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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