初任給大幅アップで40万円に! でも、「残業代80時間分を含む」で炎上! 定額働かせ放題!? 固定残業代の闇
■固定残業代は労働者の権利を奪う! 「労働の市場価値を突き詰めれば、1時間当たりの単価(時給)に換算されます。そして、その計算に残業代は含まれない。 基礎賃金(基本給に各種手当を加えた1日当たりの金額)を所定労働時間(月給制の場合はひと月分の所定労働時間の合計)で割って時給額を算出し、法律で定められた25%以上の割増分を加えた金額が残業代の1時間分となります。 これと別に賞与(ボーナス)も基本給から計算する。つまり、給与の計算では基本給がすべてのベースなんです」 そのため、企業と労働者の賃金交渉では基本給の額が焦点になるという。 「しかし、固定残業代のように残業代を含めた金額が実質的な基本給となれば、労働者は給与の時給換算が困難になります。基本給だけで計算すべきなのか、残業代も含めて計算すべきなのか。自分の市場価値は、どちらで考えるべきか。 そもそも給与が高い理由は、優秀な人材だからなのか、いつでも長時間労働させられるからなのか、その判断も企業側しかできない。 そして、市場価値がわからなければ、自分の働きぶりに対する適切な給与額もわからない。だから、労働者側からの賃金交渉がしにくい。これが『固定残業代は労働者の権利を奪う制度』と断ずる理由です」 もともとTOKYO BASEはアパレル業界の平均を超える給与の高さで知られ、賞与額も基本給ベースではなく、個人成績と連動しているという。批判の多い今回の施策に踏み切ったのも、業界水準以上の給与額を実現するという、強いこだわりがあるからこそだったのかもしれない。 「私はTOKYO BASEが特別にブラックな企業だとは思いません。ただ、脇が甘い。 『固定残業代が実質的な基本給である以上、残業代は別途支払われるべき』という判例を踏まえると、『残業を減らすため』といった導入意図は、企業側が基本賃金として固定残業代を支払うつもりと説明しているようにしかとらえられない。これは残業代請求の裁判で証拠になります。私が同社の顧問弁護士だったら、絶対に言わせないでしょうね。 もっとも、似たような賃金体系でありながら問題になっていない企業はほかにもたくさんあります。今回の件は、あらためて固定残業代の問題を可視化し、労働者に警鐘を鳴らしてくれた意味では良かったと思います」 ●渡辺輝人(わたなべ・てるひと) 1978年生まれ、千葉県出身。上智大学法学部卒業後、2005年弁護士登録(京都第一法律事務所所属)。日本労働弁護団全国常任幹事。過労死弁護団全国連絡会議所属。日本労働法学会会員。残業代計算ソフト『給与第一』開発者。労働者側の立場で賃金請求のみならず解雇、雇い止め、労災・過労死などの事件を扱う。 取材・文/小山田裕哉 画像/PIXTA