初任給大幅アップで40万円に! でも、「残業代80時間分を含む」で炎上! 定額働かせ放題!? 固定残業代の闇
■残業代と区別せよ! 最高裁の厳しい判決 まず、前出の記事で主張されていた、「残業してもしなくても給与が変わらないのなら、残業を減らすように努力するはず」という固定残業代の「負のインセンティブ」の議論について、渡辺弁護士はこう疑問を呈する。 「それは労働者に業務量と労働時間の裁量があって初めて成り立ちます。だから、欧米でも労働時間規制の緩和は、管理職やクリエーティブ職など一部のホワイトカラーに限定的です。 それが欧米などの『ホワイトカラーエグゼンプション』であり、日本での『高度プロフェッショナル制度』です。裁量のない仕事において、固定残業代制度だと残業が減るという根拠はないのです」 この指摘に対して、同社は店舗スタッフも含む全社員に当事者性を持った働き方を実現できるだけの裁量を持たせていると回答。しかし、主張どおりの働き方だったとしても、根本的な問題は変わらないと渡辺弁護士は言う。 「そもそも80時間の残業は、企業が法定時間を超える労働を課す際に労働者と結ぶ『36協定』の通常の上限(月45時間)すら上回ります。長時間残業の実態がないとしても、そうした危険な働き方を可能にしていること自体が問題です」 渡辺弁護士によると、固定残業代の起源は朝鮮戦争(1950~53年)の時代にさかのぼる。当時は戦争特需により、製造業を中心に残業が急速に増えた。しかし、残業代を天井知らずに支払い続けられるほどの儲けはない。そこで一定額の割増賃金を定めることで、時間外労働の対価とする企業が現れたのだ。 「当時は日本全体で賃金が上がり続けた時代でもあり、『残業代が十分に支払われない』という不満を抱く人はいませんでした。しかし、バブル崩壊後に事情は変わります」 長引くデフレに日本中があえいでいた2000年代半ば、固定残業代制度を導入する企業が急増したのだ。 「当時は空前の就職氷河期にあり、賃金水準は長らく低いまま。その中で平均より高い給与で求人をする企業がいくつも現れ、かなりの話題を集めました。 しかし、実態は固定残業代による基本給の水増し。残業の抑制どころか、『固定分は働け』とばかりに長時間労働が横行した結果、ブラック企業の『定額働かせ放題』に悪用されて社会問題となりました」 そのため、近年の残業代の支払いを巡る裁判では、「固定残業代は実質的に基本給であり、残業代は別途、きちんと計算して支払うべき」という判例が増えてきている。 「この流れは、トラック運転手の残業代を巡る昨年の『熊本総合運輸事件』における最高裁判決で決定的になりました。かいつまんで説明すると、基本給と残業代を明確に『判別』できない賃金体系、つまり固定残業代は、時間外労働に対する対価として認められないとの判断が下ったのです。 このように、すでに固定残業代には大変厳しい判例が出ており、そもそも採用すべきではない賃金体系となっているのです」 しかし、なぜ固定残業代には、それほど厳しい司法判断が下されているのだろうか。 「ブラック企業に悪用されることだけが、固定残業代のリスクではありません。労働者の権利が奪われてしまうことが最大の問題なのです」