<オバマ氏広島訪問>核軍縮を阻む「核兵器の非人道性」への無理解
オバマ米大統領の広島訪問が正式決定されました。5月末に伊勢志摩で開かれるG7サミット閉幕後に被爆地である広島を訪れます。オバマ大統領は2009年4月にチェコのプラハで「核なき世界」の実現を訴えました。しかしそれ以降、核軍縮はけっして進んだとはいえません。核軍縮の歩みが遅いのは、安全保障的な観点もありますが、それ以外にも大きな要素があると元外交官で国連軍縮大使を務めた美根慶樹氏は指摘します。それは何なのか。美根氏に寄稿してもらいました。 【写真】オバマ米大統領の「広島」訪問 最大の意義とは?
「毒ガス」や「地雷」は禁止条約ができたが
核兵器(以下単に「核」)の廃絶がなかなか実現しないのは、現在の国際情勢下では核の抑止力が必要で完全に手放すわけにはいかないと考えられていることもさることながら、「核の非人道性に対する理解が十分でない」からだと思います。こう言うと、「いや、核が非人道的であることは明らかであり、理解されている」という反論が出てくるかもしれませんが、どういうことか以下に説明していきましょう。 兵器は本来非人道的ですが、一部の兵器はあまりにひどい結果をもたらすので19世紀の終わりころから使用を禁止しようとする動きが起こり、国連では、「非人道性」とは何かを研究するとともに、一定の兵器を禁止する条約が作られてきました。 その結果、「非人道性」とは、「過度に」あるいは「無差別に」人を殺傷することだということが明確になってきました。 核については、さらに「多数の市民を殺傷する」という問題があります。 そして、具体的には、毒ガスや対人地雷は条約ですでに禁止されていますが、核を禁止する条約はできていません。 核不拡散条約(NPT)や国連では、核の「廃絶」や「使用禁止」について議論をしていますが、核保有国と非保有国との間の考えの相違はまだ大きく、「核の使用禁止」が成立するのは「核の廃絶」と同じくらい困難なようです。
国際的な同意が得られていない「非人道性」
そこで、数年前からまず「核の非人道性」を確立しようとする運動が国際的に展開されてきました。この問題については1996年、国際司法裁判所は「核の使用は原則として国際人道法に反する」という判断をしましたが、これは「勧告」であり、各国に対して拘束力はありませんでした。 新たに展開されている運動は、核の廃絶が実現するまでの間、中間的な方策として「核の非人道性」について各国の合意を形成しようとするものです。 しかしこの運動においても、核は抑止力のために必要だという考えが影響を及ぼしており、「核の非人道性」は国際的なコンセンサスとして確立するに至っていません。 日本はこの運動に参加する一方、世界の指導者に対し被爆地を訪問し、被爆の実態をじかに感じ取ってもらうことを勧めています。「核の非人道性」を確立する国際運動は、いわば、「言葉で」目的を達成しようとしているのに対し、被爆地訪問は「体験により」核の非人道性を会得するものであり、4月に広島で開催されたG7外相会合は非常に効果的でした。