誰が「貧困者」になっているのか?…日本で「若者と高齢者の貧困率」が高い深刻な理由
社長と社員の給与格差、どれくらいならOKですか? 日本では、資産5億円以上の超富裕層は9万世帯。単身世帯の34・5%は資産ゼローー。 【写真】社長と社員の「給与格差」、どれくらいなら許せますか? 富裕者をより富ませ、貧困者をより貧しくさせる今日の資本主義。 第一人者が明かす、貧困大国・日本への処方箋。 本記事では〈先進国のなかでも、深刻なほど「所得格差」の大きい日本…なぜ日本でこんなにも格差が拡大しているのか? 〉にひきつづき、貧困についてくわしくみていきます。 ※本記事は橘木俊詔『資本主義の宿命 経済学は格差とどう向き合ってきたか』から抜粋・編集したものです。
若者と高齢者の貧困率が高い理由
貧困の発生する理由については、橘木・浦川『日本の貧困研究』(2006年)と拙著『貧困大国ニッポンの課題』(2015年)で詳しく論じたことがあるが、それらをもとに要約してみよう。 貧困者の多い理由を議論する前に、誰が貧困者になるかを簡単に知っておこう。まず単身者と既婚者を比較すると、圧倒的に単身者に多い。単身者のなかでも若年層と高齢層に目立つ。景気が悪くなると日本企業では若年層の採用を控えるので、若者の失業率が高くなる。たとえ失業者でなくとも勤労する若者の賃金は年功序列制によってかなり低く抑制されていたことも要因となる。引退した高齢者には働く場所がないので稼ぐことが不可能だし、かなりの割合の高齢者の年金受給額が低いことも原因である。 男性と女性を比較すると、勤労世代での賃金は女性差別の存在によって男女賃金差があるし、女性にパート労働などの非正規労働者が多いので、女性の賃金は低い。引退した女性高齢者においても勤労していた時の賃金が低かったので、女性高齢者の年金額は低くなる。 もっとも深刻なケースは、母子家庭で母親が一人で子どもを養う場合や、専業主婦だった女性が夫を亡くし遺族年金しかないような場合で、所得が非常に低くなる。
抑制されてきた最低賃金
以上のように、高齢者(特に単身女性)と若者(特に母子家庭)に貧困者が特に多くなるのであるが、さらに次のような経済的要因と制度的背景が加わる。 (1)失われた30年(あるいは20年)と称されるように、日本経済の低迷は顕著であり、失業者が増加し、かつ賃金の伸びはきわめて小さく、時にはマイナスになることもあった。 (2)日本の社会保障制度(年金、医療、介護、失業など)はヨーロッパと比較すると不十分であり、経済的困窮に陥る確率は高くなる。これは支給額のみならず、制度の加入から排除される人(特に非正規労働者)がかなりいた。 (3)戦後一貫して(特にここ20~30年において)家族の絆が弱くなり、家族間の経済支援の程度が弱まった。同時に人口構成において単身者の比率が高まった。 (4)労働市場において年功序列制が強かったので、若者が低賃金に苦しんだ。ここで過去40年弱の期間、非正規労働者の割合がいかに推移してきたかを図1-2で見てみよう。1984年には15%程度であったが、その後比率が急上昇して、2019年には38.3%の高さにまで上昇した。労働者の4割弱が非正規労働という異様な姿になった。 急上昇の要因として、既婚女性が子育てと家事に従事したいため、短時間労働を希望したこともあるが、経営側が労働費用節減のため、その形態を欲したことが大きい。さらにここ20~30年の間にパート・派遣の期限付き雇用などの非正規労働者が増加した。 図にも示されているように非正規労働者の賃金・所得はかなり低い。企業にとっては不景気が深刻になればすぐに解雇できるメリットも重視された。なお2022年には比率が多少減少しているのは、社会で非正規労働者が多過ぎるとの批判が高まり、経営者もその数を減少させようとしたからである。 (5)日本の最低賃金制度においては、最低賃金額が低く抑制されてきた。それを知るためにG7との比較で日本の最低賃金の数字を表1-5で示しておこう。日本はアメリカよりは多少高いが、基本的には他国と比較して低い水準にある。じつはここ数年、日本は最低賃金を高めてきたのであり、それ以前ではかなり低かったことを強調しておきたい。 もう一つの特色として、日本では最低賃金以下で働いている人が相当数いるという事実を忘れてはならない。厚生労働省の『最低賃金に関する基礎調査』によると、最低賃金以下で働く人の労働者を未満者とみなして、その未満率を推計している。2022年ではそれが1.8%と推計されている。極端に高い割合ではないが、無視できない数字である。 (6)日本の生活保護制度は不十分である。その典型例は、20%前後という低い捕捉率(生活保護支給を受けることのできる低い所得であり、実際に政府から支給されている人の割合)で示される。西欧諸国では50%を超えているし、国によっては80%にまでなっている。このことからも制度は十分に機能していないと結論づけられる。
橘木 俊詔