2017年春に10%へ 消費税と政治の歴史 早稲田塾講師・坂東太郎の時事用語
首相の橋本龍太郎氏は人気が高く、選挙でも勝利を収めて翌97年4月に予定通り引き上げました。この頃になると「直間比率見直し」より赤字体質からの脱却や社会保障の充実が表立ってきて、それまで続けてきた特別減税を打ち切ったほどです。 急速に財政健全化へと舵を取る政権の思いとは裏腹に、山一證券や北海道拓殖銀行の破綻につながる動きなど金融システムの不安や、タイからインドネシア、韓国にまで及んだアジア金融危機で資金がフライト(資本逃避)して深刻な景気後退局面を迎えました。翌98年7月に行われた参院選で自民党は惨敗。総辞職に至りました。
2009年の総選挙で政権を奪取した民主党は、鳩山由紀夫首相が沖縄の普天間飛行場移設問題で迷走して退陣後、菅直人氏が首相となりました。菅首相は10年7月の参院選前に突然、野党・自民党が掲げていた「消費税率10%」を「一つの参考にする」と言い出して「何にどう使うのか」などと批判され十分に答えられず大敗。参議院の過半数を野党が占める「ねじれ」を招来してしまいました。 引き継いだのが冒頭の野田首相です。消費税増税の道筋をつけた代わりに12年末の総選挙で民主党は記録的大敗を喫して政権から滑り落ちました。
さて14年総選挙で10%先送りを掲げて勝利した安倍首相は、「柳の下の二匹目のどじょうを狙う」とばかりに再延期で勝利を目指すでしょうか。これまで挙げてきた増税のキーマンである大平氏、竹下氏、橋本氏、菅氏、野田氏はいずれも財務(大蔵)大臣経験者。財務省は増税しかないという立場ですから自らの信念で動き、大蔵官僚でもあった大平氏を除けば大臣就任時から「洗脳」していたのかもしれません。 対して安倍氏はどちらかというと財務省嫌いなので二度目があるかも。ただ2014年総選挙の際に「増税の再延期はしない」と約束しているのも事実。「柳の下の二匹目のどじょう」というのは「いない」がオチなので、安易には決められないでしょう。動き(再延期する)があるとすれば5月末頃。2月の15年10~12月期GDP速報と5月の16年1~3月期速報ともにマイナスとなれば、がぜん現実味を帯びてきます。
--------------------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】