三谷幸喜監督が10Pのシーンを白紙に戻した理由 『スオミの話をしよう』演出の裏側
その真意について三谷監督は「長回しのシーンに限ったことではないのですが、何度も何度もリハーサルができるというのは、僕にとってはありがたいですし、俳優さんにとってもやりやすいと思うんです」と切り出しつつも「でも唯一欠点があって。だんだん慣れてきてしまい緊張感がなくなってしまうんです。基本的にその場で初めて遭遇する場面なのに、稽古を重ねると誰が次に何を喋ってどう動くか……というのが分かってしまう。どうしても段取りっぽくなってしまうんです」とデメリットをあげる。
だからこそ、一旦覚えたことをリセットし、初めてその場で遭遇した出来事として新鮮さを出してもらう。一度覚えたことを忘れる……というのは難しく感じられるが「もちろん本当に忘れてしまうことなんてできないと思うのですが、忘れたつもりになるというスイッチを押してもらうだけで、結構俳優さんにとっては違うと思うんです」と効果的な演出方法であることを述べる。
演出方法は俳優によって百八十度変える
スオミの元夫を演じる西島と松坂は、三谷組初参加。西島については「現場で初めてご一緒したのですが、僕がこうしてほしいということを瞬時に理解して、ご自身から“こういう感じにしましょうか?”と提案してくださるのでありがたかった」と言い、松坂についても「物語後半のキーパーソンになる人物」と重要な役柄であることを明かすと「松坂さんも西島さんと同様にとても理解度が高い俳優さんでした。稽古を重ねていくと、どんどん僕がゴールとして思い描いていることを把握してくださいました」と相性の良さを強調する。 三谷作品と言えば、主役級の俳優たちが数々登場するのも大きな魅力だ。そんな百戦錬磨の俳優たちをどのように演出しているのだろうか。
「おっしゃるように僕がキャスティングさせていただく俳優さんは、数多くの現場を踏まれている力のある方々。本当にいろいろなタイプの方がいます。僕がイメージしていることを、どのような方法で伝えると早く正確に理解してもらえるかということはすごく意識しています。だからこそ、一人一人アプローチ方法は違います。特に、初めての方とご一緒するときは緊張します」