トイレットペーパーの品切れはなぜ起きた? 社会心理学の専門家に聞く
2月末ごろから、全国のスーパーやドラッグストアなどで、一斉にトイレットペーパーなどの紙製品が売り切れる現象が起きました。SNSで流れた「トイレットペーパーやティッシュが品薄になる」とのデマが発端とされていますが、なぜこれほどまでに急速に、しかも全国規模で起きたのでしょうか。社会心理学の専門家に話を聞きました。
突然、棚が空っぽに
「2月27、28日ごろからトイレットペーパーなどが売り切れる店が増え、すぐに全国の店舗に広まりました」 こう語るのは、イオン株式会社の広報担当者です。売り切れたのは、トイレットペーパーやティッシュペーパー、生理用品、キッチンペーパーなど、誰もが日常的に使う紙製品でした。
同社によると、トイレットペーパーなどは、メーカー、問屋、イオンの物流センターに在庫が豊富にあり、各店舗への配送量も通常時と変わりませんでしたが、普段を大幅に上回る売れ行きにより多くの店舗で棚が空っぽになったとのことです。 同社はこれらの紙製品の店舗への配送量を増やしつつあるといい、広報担当者は「今週末には各店舗に紙製品が行き渡るよう手配しています」と話します。
買い占めはなぜ起きた?
全国的な紙製品買い占めはなぜ起きたのでしょうか? 東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センターの関谷直也(せきや・なおや)准教授(災害情報論、社会心理学)は「いわゆる社会学や社会心理学でいう『予言の自己成就(じょうじゅ)』の典型例です」と言います。 「予言の自己成就」とは、人々が根拠のない予言(うわさや思い込み)を信じて行動することによって、予言が現実化する現象を指します。今回の場合、イオンや問屋には在庫があったにも関わらず、「紙製品が足りない」という予言が実際に起きてしまったのです。 関谷氏は続けます。 「メディアでトイレットペーパーが売り切れていると報じられたり、ネットで売り切れている情報や写真が出回ったり、自身が直接売り切れている状況や購入のための行列を見たりして、『紙製品がない』と認識した人が購入に走り、それをまたメディアが報道する。この繰り返しによって全国に広まっていったのです」 1973年の石油ショックの際、トイレットペーパーが売り切れたのも同じ現象だといいます。