仙台育英・須江航監督「3年生を送る会」合唱のため1カ月練習を削った狙い/インタビュー連載1
<仙台育英・須江航監督インタビュー1> 謹賀新年。日刊スポーツ東北6県版ではお正月特別企画として、18年から仙台育英(宮城)を指揮する須江航監督(41)のインタビューを全4回にわたりお届けします。22年夏には東北勢初となる甲子園優勝、翌夏は同準優勝に導きました。昨年7月の新チーム始動からここまでの取り組みを始め、3月に卒業を控える3年生へのメッセージや競技人口減少問題についても語ってもらいました。【取材・構成=木村有優】 東北の寒さも本格的になった師走のある日。力強く、繊細な歌声が響き渡った。松島で行われた「3年生を送る会」での1、2年生による合唱は、須江監督の就任以来、毎年恒例だ。今年の曲は、Mrs.GREEN APPLEの「僕のこと」。指揮やピアノ伴奏も選手が行い、1曲を作り上げた。 約1カ月間、朝や放課後の練習時間を60から90分削り、元音楽教師である監督夫人の指導の下、合唱の練習に充てた。本番当日のたった6分間のために、グラブもバットも置いた。須江監督には、勝利につながる大きな狙いがあった。 「どのスポーツも発揮力。持っているもの勝負ではなく、出したもの勝負。本番で自分たちが納得いく合唱をする。絶対にこの日に一番いい歌を披露し、聞いているみなさんの心に響くような取り組みを1カ月間、うまくはないですけど一生懸命してきました。野球とともに人物として、思考力や物事に対する向き合い方を学んでいかないといけないので。1つは野球を突き詰めていくこと。そして、野球とは全く違う価値観や練習の中で、そういう能力を向上させていくような取り組みをやってきた12月でした」 ここまでの冬は「発揮力」と同時に、フィジカル面や打撃面に特化した個人の技術向上に焦点を絞った。それは、変わりゆく高校野球に適応するためでもある。昨春から反発力を抑えた新基準の低反発バットに移行。時代とともに、勝利するための野球も変わりつつある。 「僕は2つの野球を獲得したチームが甲子園で今後、勝ち続けるという仮説を立てています。1つはダイヤモンドの中で点数を取る緻密な野球です。バントやエンドラン、ダイヤモンドの中でしっかり守る、バッテリーを含めた内野の守備力の堅さが時代をつくっていくと思います。しかし、この芯が狭くなったバットでの野球を制するのは、その部分とともに、以前と同じ、またはそれ以上の打力を発揮したチームだけが残っていると思います」 勝敗を分ける「発揮力」にもつながる大舞台での経験は重要だ。だが、今年は甲子園を知らない選手たちの挑戦となる。今春センバツ選考の参考資料となる昨秋東北大会では、優勝した聖光学院(福島)に準々決勝で敗れた。3季連続甲子園出場を逃すことが濃厚となっている。現チームの中で甲子園ベンチ入り経験があるメンバーはおらず、1年生に至っては甲子園の景色すらも見たことがない。一発勝負で甲子園に出場する難しさと直面している。 「甲子園で勝つためにどういう準備をして、どういうメンタリティーをつくって、どんなフィジカルを調整して、大会何日目の第何試合に合わせるみたいな。県大会のレベルではなく、甲子園で勝つための準備なので、もう1つ、2つもレベルが高いわけですよ。それを知らないで今年の夏を迎えるという。3季連続、甲子園に行けないだけで、県内や東北の学校にかなり後れを取ってしまいました」 それでも「勝ち続けるだけでは何も学べない」ときっぱり。「悔しいだけでは終わっていられないので、この3季連続の敗戦を学びに変えなくてはいけない。大きくジャンプアップ、ステップアップするための今は我慢のしどころというか、歯を食いしばって頑張る時期だと思います」と前を向く。 チームは今、成長している最中だ。次回は、1年時には甲子園優勝、2年時には同準優勝を経験するも、最後の夏は甲子園出場がかなわなかった3年生への思いをお送りする。(つづく) ◆須江航(すえ・わたる)1983年(昭58)4月9日生まれ、さいたま市出身。小2で野球を始め、鳩山中(埼玉)から仙台育英入学。2年秋から学生コーチとなり、3年春夏の甲子園に出場(春は準優勝)。八戸大(現八戸学院大)でも学生コーチを務めた。06年から仙台育英系列の秀光中軟式野球部監督となり、14年に全国制覇。18年1月から仙台育英の監督に就任。1年目の夏から甲子園に出場。22年夏に東北勢初となる優勝。23年夏は準優勝。甲子園に春夏通算6度導き、計17勝。情報科教諭。