中国きっての国際派エコノミストが米国の経済安保戦略に忠告 「われわれは地政学のために生きているわけではない」
「一方、地政学と米国の要求に従って、台湾、日本、韓国、オランダが競って投資をしています。5年、いや3年後には、先端半導体は深刻な供給過剰に陥るでしょう。しかし、中国は汎用品が主体なので大きな問題にはなりません。この件については、3年後にまた会って検証しましょう」 ▽国家の安全重視が長期インフレを招く 中国に対し、5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)の共同声明でも中国を念頭にした対外投資規制が盛り込まれ、対中包囲網は狭まっているようにみえる。 「政治家は、何を言うかと同時に、何をするのかを見なければいけません。(G7で語られた)デリスク(リスク回避)という言葉自体、政治家たちが産業チェーンのデカップリング(切り離し)が不可能だという共通認識に達したことを意味します。世界経済の大きな方向は緩和に向かっていると思います。各国の政治家が分かってきたのは、われわれは結局、地政学のために生きているわけではなく、食べなければならないということです」
「各国はそれぞれが得意なものを生産します。資源の配置は効率化を基準にすべきであり、政治と国家の安全を前面に押し出すべきではありません。もし安全を前面に押し出すと、グローバルの成長率を押し下げ、生産コストを押し上げて効率を悪くすることで長期的なインフレを招きます」 ▽日中が世界最大の産業チェーン 米中関係と平行して、日中関係も緊張の度合いを増している。 「中国と日本の経済は常に一緒です。両国が世界最大の産業チェーンを形成しています。ドイツが0.5、米国がラテンアメリカを含めて0.5の産業チェーンをつくっているとすれば、中国と日本が1の最大チェーンとして世界経済に貢献しているのです。両国の貿易は互いに50%以上が中間財(最終製品をつくるための加工済みの材料や部品)を輸出入しており、密接につながっています」 「消費分野でも両国は協力できます。日本は中国より早く高齢化社会を迎えましたが、日本の医療や高齢者向け商品、サービスの経験は素晴らしい。この経験と中国の2億人の高齢者市場を結びつけることができます。高齢化は世界的に進んでいます。中国と日本が協力して将来の高齢化対応の商品を生産するようになるでしょう。日本が加わらなければ、中国が独自で生産することになります。世界的な課題を解決する中で発展を求めていかなければなりませんから。クリーンエネルギーの分野も同じです」
× × × 最後に日本の印象を聞いてみた。 「東京は相変わらずきれいで、清潔ですね。コロナの3年があっても変わらない。私はIMF時代に90を超える国を担当し、多くの国に行きましたが、日本の国民性、教育はとても良いと思います。技術力も高い。いまの地政学はもう立ちゆかなくなっています。今回の訪問で、みなさんとコミュニケーションを取り、交流を深めたいと感じました。私はもう70歳ですが、まだみんなで頑張って世界を良い方向に動かしていけると思います」