中国きっての国際派エコノミストが米国の経済安保戦略に忠告 「われわれは地政学のために生きているわけではない」
▽経済構造の転換に「危機感はある」 中国政府は2023年の成長目標を「5.0%前後」に設定していますが、コロナや米中対立の影響で下押し圧力は強い。 「5.0%はIMFや世界銀行の予測より低い数値で、安定重視の目標です。われわれも経済の構造転換が容易でないことは認識しており、危機感があります。従って中国が成長速度を保つには、改革開放を続ける必要があります。世界に向かって開放し、ビジネス環境を改善して競争力を高め、国有企業を改革しなければいけません」 中国は「世界の工場」と呼ばれてきたが、習近平指導部は近年、輸出型から内需型、つまり国内消費が経済をけん引する日米のようなモデルへの転換を図っている。だがコロナや不動産問題を背景に難航している。 「新たな3本柱のうち、カーボンニュートラルとデジタル化への転換はいずれも速い速度で進んでいます。例えば、中国が電気自動車(EV)と太陽光発電パネルを輸出するようになると以前は誰が予想したでしょうか。いまベルギー向けの主な輸出品はEVですが、ベルギーからの輸入品は相変わらずチョコレートや牛乳です」
▽国内消費の拡大が最大の課題 「最大の課題は国内消費です。中国は貯蓄する文化で、国内総生産(GDP)比で42%を占めています。人びとに安心して消費してもらうためには、高齢化社会に対応した社会保障制度の拡充が必要です。中国は子ども向けの消費は非常に高いのですが、今後は高齢者向けの商品やサービスが求められます。農村の消費拡大もまだ大きな余地があります」 「若者は、結婚のために家を買ってしまうとローン負担から消費しなくなるので、公的資金を活用した賃貸住宅の拡充が不可欠だと私は主張していますが、国内には反対意見も多い。中国の不動産部門はとても大きいので、(恒大問題から)金融リスクに発展させるわけにはいきません。中国政府はコントロールする力がありますが、この分野の構造転換は長期的な課題です」 ▽合理性のない規制で半導体は供給過剰に 中国が目下直面している最大の課題は、米国による半導体の輸出規制だ。「産業のコメ」と呼ばれる半導体のサプライチェーン(供給網)から閉め出されれば製造業が停滞を免れない。 「米国は安全保障の名目で半導体(の供給網)を封鎖しようとしていますが、経済問題の政治化は国際的な慣行に背き、国際秩序を壊しています。グローバル化とは(各国の)専業化であり、世界的な供給網の配置にはそれなりの合理性があるものです。中国は毎年、3000億ドル(約42兆円)の半導体チップを輸入してきましたが、規制により市場は縮小するでしょう。規制は中国に自国での製造を迫るものです。いま中国は回路線幅が28ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の製品しかつくれませんが、これは自動車、家電、5G設備など多くの分野に使われます。そして、中国もまもなく14ナノメートルの製品を量産するでしょう。まだスマートフォン用の半導体はつくれませんが、これらは多くの産業の需要に対応できます」