鯨類飼育の変遷⑧ 飼育世界記録を2年更新 くじら日記
1994(平成6)年1月24日、コビレゴンドウの雄「ゴンタ」の飼育日数が、当時の飼育世界最長記録を塗り替えました。獣医師としてゴンタの飼育に関わっていた白水(しろうず)博氏は「神経質で飼育が難しい鯨類、感慨深いこと」と振り返りました。 和歌山県の太地町立くじらの博物館のコビレゴンドウの飼育は1969(昭和44)年のオープン当初までさかのぼります。約40頭のコビレゴンドウが「鯨プール」と呼ばれる自然の入り江に運び込まれ、「放し飼い」が始まりました。 自然界での暮らしを再現したかのような唯一無二の展示であった一方、広くて管理が行き届かないという課題に直面し、1年も経たずにクジラは姿を消しました。 それからも長期的な飼育ができなかったことから、専門の獣医師の必要性を感じ、1973(同48)年、獣医学部を卒業したばかりの白水氏を迎い入れました。当時、国内における鯨類の診療経験がある獣医師は、神奈川県藤沢市の江の島マリンランド(現在の新江ノ島水族館)と千葉県鴨川市の鴨川シーワールドに所属する2人だけで、白水氏は3人目であったといいます。 経験もノウハウもほとんどない状況で、コビレゴンドウの飼育に真正面から向き合うことになった白水氏は「力不足も痛感したが、突き詰めるしかなかった」と当時の気持ちを語りました。 ゴンタの飼育は1985(同60)年4月6日に始まりました。太地町湾内に追い込まれたコビレゴンドウ70頭以上の中から、ゴンタと別の雄の2頭を搬入しました。オープン当初とは異なり、1頭1頭丁寧に手をかけることができる頭数です。運び入れたのはイルカショープールのサブプールでした。コビレゴンドウは餌付けが難しく、強制給餌が欠かせません。毎日できるように、取り上げが容易な比較的小さいプールを選んだのです。それにより、2週間が経った頃には、ゴンタは投げ入れたイカを食べるようになっていました。 4月21日、ゴンタを自然の入り江である鯨プールに移しました。放し飼いではなく、入り江の一角を網で仕切ったスペースでの飼育です。この外には、バンドウイルカなど他の鯨類が飼育されていて、網越しにコミュニケーションをとれる環境です。