本田圭佑の“スピリット”を継ぐ19歳次世代ホープ安部裕葵の可能性
迎えた昨年4月1日。敵地で行われた大宮アルディージャ戦の後半29分から、安部は初めて公式戦のピッチに立った。18歳2ヵ月4日でのJ1デビューはクラブ史上で3位の若さであり、しかも試合状況は0‐0で、さらに最初の交代カードだった。 幾重ものプレッシャーがかかるなかで安部を送り出した理由を、石井正忠監督(現アルディージャ監督)は後にこう明かしてくれた。 「ちょっと早いんじゃないか、という思いもありました。ただ、能力のある選手は、早く高いレベルの試合に出したほうがいい。それだけのレベルにすでに達していたので」 指揮官の期待通りに安部は決勝点に絡む。縦パスを蹴ろうとした相手へ果敢にプレスをかけ、必死に伸ばした右足のつま先をかすらせてコースを変える。こぼれ球を拾った味方が素早くパスをつなぎ、最後はFW土居聖真がゴールネットを揺らした。 もっとも、試合後に先輩たちやスタッフからかけられた声で、安部は常勝軍団のなかでポジションを勝ち取っていく厳しさを実感している。 「ナイスプレーではなく『とりあえずデビューおめでとう』とだけ言われたんです。今日はいい経験で終わったということ。常に得点に絡めて、前を向いてボールをもっただけで相手が嫌がる選手にならないと」 1年目は最終的にJ1で先発1回を含めた13試合、計272分間プレーして1得点をあげた。そして、2年目の始動日に「今シーズンは本気を出します」と自ら逃げ道を閉ざすかのように、本田をほうふつとさせるビッグマウスを放っている。 「去年が本気じゃなかったわけじゃないけど、マジで自分がエースになるくらいの勢いでやりたい。去年あれだけ試合に使ってもらって、先輩たちにもかなり気を使ってもらって、僕のやりやすい環境でやらせてもらったので。期待もされていると思うし、プレッシャーもほどよく感じながらタイトル獲得に貢献したい」
チームが始動した1月9日は、約7年半ぶりに復帰したDF内田篤人が合流した日でもあった。慣れ親しんだグラウンドでの初練習を終えた内田は、「若手がかなりオレにビビっているみたいだね」と苦笑いしている。ドイツで長くプレーしてきた大先輩へ、実は真っ先に話しかけたのが安部だった。 「自分から吸収しようという意欲を感じるよね。注文としては、ボールをこねる部分と速く動かす部分をもうちょっとはっきりできればいいんだけど、まだ若いし、技術や能力をもっているから、どんどんチャレンジしていってほしいよね」 目を細めながらこう語った内田は、ヨーロッパ移籍および日本代表の先輩として、19歳の成長株へ熱いエールを送ることも忘れなかった。 「彼の性格的にもこのチームで収まる選手ではないと個人的には感じているし、後々には日本代表も背負うべきだとも思う。若手にはいい選手がたくさんいるけど、彼のように上手くてガッツのある選手は大事なので」 4月に入って第二腰椎横突起を骨折し、約1ヵ月間の戦線離脱を強いられた今シーズンは、それでも3度の先発を含めてJ1で6試合に出場。プレー時間は305分間と昨シーズンをすでに超えている。 そこへ、ロシアの地で得た刺激が加わった。金星をあげたコロンビア戦、本田の3大会連続ゴールで引き分けたセネガル戦を現地のスタジアムで観戦した安部は、新たな夢を胸中に抱いている。 「ずっと日本のなかにしかいなかった自分がワールドカップを見て思ったのは、サッカーというスポーツは自分が思っていたよりもはるかに偉大で、影響力があるということでした。いろいろな人に見られていて、素晴らしい影響を与えられる立場にいることをものすごく自覚しました」 FC町田ゼルビアに5対1で大勝した、11日の天皇杯3回戦でも左MFで先発。無得点に終わったものの、後半8分にはポストを直撃する惜しい一撃を放った。代表引退を表明した本田のように、大きな影響力を放つ選手になるために。171cm、65kgの体に無限の可能性を秘めたホープの挑戦は続く。 (文責・藤江直人/スポーツライター)