北朝鮮

　韓国と北朝鮮の軍事的緊張が急速に高まっている。北朝鮮は15日、軍事境界線（MDL）からわずか10メートルほど北朝鮮側で南北をつなぐ道路を爆破。「国境」によって南北分断を強める姿勢を明確にした。金正恩（キムジョンウン）朝鮮労働党総書記は今年に入り、憲法から「平和統一」との表現を削除するよう指示。父、正日（ジョンイル）氏が首都平壌に建てた統一目標を象徴する「祖国統一三大憲章記念塔」も撤去した。南北統一の理念を排除することで「敵対的な2国家」との現状を固定し、独裁体制の維持を狙っているとみられる。（ソウル山口卓） 【写真】15日、韓国軍が北朝鮮による京義線の道路爆破を捉えた映像の一場面 　「（韓国との）悪縁を絶ち切ろうとする新しい世代の憎悪と復讐（ふくしゅう）心が噴出した」。16日付の北朝鮮の労働新聞は「全国から140万人余りの若者が朝鮮人民軍への入隊や復隊を志願した」と1面で報じた。 　北朝鮮は15日、韓国とつながる南北道路の東部・東海線と西部・京義線を爆破。昨年末から周辺の鉄道レールや街灯を撤去し、地雷を埋設していた。今後、コンクリート障壁なども設ける「要塞（ようさい）化」の工事が進むとみられる。朝鮮人民軍は「不変の主敵である韓国との国境を永久に遮断、封鎖する」と強調している。 　金氏は2018年の南北首脳会談、18～19年の米朝首脳会談が経済制裁解除などにつながらず破綻して以降、平和統一の否定と核開発を政策の柱としてきた。 　まず20年6月、開城工業団地の南北共同連絡事務所を爆破。今年1月の最高人民会議で、南北会談や経済協力を担ってきた祖国平和統一委員会、民族経済協力局、金剛山国際観光局などの廃止を決めた。 　金氏はこの会議で、正日氏が初の南北首脳会談（00年6月）後に建てた記念塔を「見苦しい」として撤去を指示。憲法に韓国を「第1の敵国」と明記し、「平和統一」などの表現を削除するよう命じた。 　2月の演説では、韓国を敵国と規定したことで「同族として対話、協力しなければならなかった非現実的な足かせを取り払った」と誇り、核兵器使用への障害もなくなったと強調した。 　5月からは北朝鮮が汚物などをぶら下げた風船を飛ばすようになり、軍事衝突の懸念は強まった。大統領府があるソウル中心部まで到達し、起爆装置が仕掛けられていたものもあった。 　韓国軍は約6年ぶりに、非武装地帯（DMZ）付近で北朝鮮に向けて金体制を批判する拡声器放送を全面的に再開。北朝鮮も金属を切るような騒音を流し、対抗している。 　10月に入り、北朝鮮側は韓国の無人機が平壌を領空侵犯し、体制批判するビラを配布したと写真付きで報道。北朝鮮外務省は11日に「重大声明」を出し、「報復を加えるべき重大な政治的、軍事的挑発と見なす」と憤りをあらわにした。 　韓国側がこの日、事実関係を確認できないと反論すると、金氏の妹の与正（ヨジョン）党副部長が翌12日に「平壌上空で再び無人機が発見された瞬間、惨事が必ず起きる」と報復を示唆し、MDL付近にいる部隊に「完全射撃準備態勢」を整えるよう命じた。これに対し、韓国国防省は声明で「北朝鮮が国民の安全に危害を加えれば、その日が金正恩政権の終わりになる」と警告した。 　韓国・北韓大学院大の梁茂進（ヤンムジン）総長は「北朝鮮が統一のドアを閉めるのは、現体制を維持する生存戦略だ。南北関係を開放すると北朝鮮住民に韓国との経済格差や国力の違いが知られ、金氏の指導力に疑問が生じる。ドアを閉め、国内での自力更生を選んだということだ」と指摘。その上で「対話を断絶すれば、偶発的な軍事衝突の危険性が高まる」との懸念を示した。