【詳細データテスト】アストン・マーティン・ヴァンテージ 速さと快適性を高次元で両立 魅力的な改良
意匠と技術 ★★★★★★★★★☆
2024年型ヴァンテージは、従来型から大幅に変貌したわけではなく、より力強い外観になりながらも、2005年登場のV8ヴァンテージ以来のDNAを持ち続けている。20年近いギャップがあっても、同じ系列のクルマだとわかるはずだ。 低く構えたリア周りや短いリアオーバーハング、均整の取れたノーズなどは特徴的だが、この3代目ヴァンテージでは、それらの表現がこれまで以上にドラマティックだ。グリルも歴代でもっとも存在感があり、21インチホイールはこれまで、ポルシェ911GT3対抗モデルである従来型のF1エディションにしか採用例がない。 最新モデルはまた、ボディが従来型より30mmほど拡幅され、全幅1981mmに達した。これは無視できる寸法ではなく、かつてのDB11よりワイドだ。シャシーは、アルミの押し出し材とキャスト材のブレンドで、基本的にDB12と同じアーキテクチャーだが、ホイールベースは短い。2705mmというのは、フェラーリ・ローマよりわずかに長い程度だ。しかし、全長は競合するフェラーリよりかなり短いのが興味深い。これは、GTカーよりスポーツカーであることを優先したことに起因する。 車両重量は、公称値が1670kg、73Lタンクを満たしての実測値が1745kg。先代を計測した際は1720kgで、冷却系の大型化や、サスペンションタワーの強化、前後アンダートレーの設置などを考えれば、増量幅は小さい。しかし、今回のテスト車に装備されていたカーボンセラミックのブレーキディスクは、27kgの軽量化を実現する。そして、2018年にテストした従来型にはなかったアイテムなので、単純計算で新旧の差は52kgということになる。 もっとも、その重量差をほぼ考えなくていいものにするほど、パワーアップしている。ほぼフロントアクスルより後方に収まったAMG由来のV8ツインターボは、3892ccで665psを発生。ちなみに、従来型は510psだった。トン当たりのパワーは398psで、これは格上に当たるDBSスーパーレッジェーラに4ps/t及ばないだけだ。 駆動力は、リアに積まれたZF製8速ATと、それに統合されたクラッチ式の電子制御LSDを経て後輪へ伝達。もしも3ペダル仕様が用意されるなら、LSDは機械式になるだろう。今回のAT車は、従来型よりファイナルを5%ショート化している。 ステアリングは電動アシストで、このアーキテクチャーを採用したほかのモデルと違って、ステアリングコラムとシャシーの接点にNVH減少のためのカップリングが用いられない。ステアリングの精密さを増すためだ。 さらにそれを高めるのが、ねじり剛性の向上だ。コーナリング時の荷重がかかった状態では、29%アップしているという。これは従来型に対する大きな進歩で、そこに組み合わせるのが、力分布の帯域幅が従来比で5倍になったというビルシュタイン製のスカイフックダンパーだ。タイヤはアストンの認証仕様であるミシュラン・パイロットスポーツS5で、フロントが275/35、リアが325/30のZR21。望めば、新型の調整式トラクションコントロールが補佐してくれる。