ドリス・ヴァン・ノッテンが咲かせた美しさについて語ろう
2024年3月19日、Breaking Newsが瞬く間に拡散する。「アントワープシックス(Antwerp Six)」の一人として知られ、数多くのモードファンを魅了してきたファッションデザイナー、ドリス・ヴァン・ノッテン(Dries Van Noten)は、1986年に設立した自身のブランド「ドリス ヴァン ノッテン(Dries Van Noten)」のクリエイティブディレクターを6月で退任することを発表した。この一報に人々は騒然とする。驚き、悲しみ、寂しさを綴ったSNSへのポストが、このベルギー人デザイナーがどれほど愛されてきたかを証明している。 【画像】ドリス ヴァン ノッテン 2017年秋冬メンズコレクション ラストショーは6月に発表される2025年春夏メンズコレクションとなり、2025年春夏ウィメンズコレクションは、ドリスと共に長年コレクション製作に臨んできたスタジオチームが手掛けることになった。1992年春夏メンズコレクションから始まった一人のデザイナーの歴史は、2025年春夏メンズコレクションで終わりを告げる。 ドリス・ヴァン・ノッテンの服には、慎み深い美しさが常にあった。コレクションの核となっていたものが、花々の彩りをグラフィカルに表現したプリントテキスタイルだ。色彩豊かな植物が体の上で咲くコートやドレスは、クラシックシルエットとの相乗効果で、雄大なエレガンスを形にしていた。しかし、ドリスの魅力は鮮やかなフラワーモチーフの生地だけではない。30年以上の歴史の中で、ドリスは多様で奥深い才能を披露してきたのだ。 そのことは2017年公開(日本では2018年)の映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』でも明らかだった。最新コレクションの制作風景を追うドキュメンタリー映画は、ドリス自らが過去のコレクションについても語る構成で、彼の言葉にはクリエイションの真髄を示唆するエッセンスが散りばめられていた。 そこで本稿のタイトルは、映画内で語られたドリスの言葉を引用しながら、その言葉が体現されたコレクションをアーカイヴからピックアップし、ドリスの創作姿勢がどのようにランウェイで花開いたかを見ていきたい。 本稿執筆時点では明らかになっていない後任ディレクター。いったいどんなデザイナーがドリスの世界を引き継ぐのだろうか。ブランド「ドリス ヴァン ノッテン」の未来が気になるのも事実だが、ファッションは過去を創作の糧にして未来のスタイルを生んできた。これまでのドリスのクリエイションに触れ、これからの「ドリス ヴァン ノッテン」に思いを寄せていこう。 まずは、1996年秋冬ウィメンズコレクションから始めたい。ミニマリズムが時代を席巻する1990年代、ドリスはどんなファッションを発表したのだろうか。