イメージカラーで振り返る都知事選 緑・紫は寄り添い示す複合色
■紫でクリエーティブなムードを演出
古代、紫の染料には希少価値があり、位の高い人や聖職者が身に着けるものだったことから、紫には高貴、奉仕という意味合いもあります。また、精神性や目に見えないものの豊かさを象徴するカラーでもあり、紫を身に着けている人は「自分の美意識を大切にしている人」「アーティスト肌」「神秘的なカリスマ」といった印象を与える傾向があります。 都知事選で石丸氏を支持したのは、主に若者や無党派層だといわれています。インターネットを軸に発信しながら「今までの政治家とはちょっと違う」「この人なら何かやってくれそう」という期待感を与えることに成功し、2位に食い込んだ石丸氏が、イメージカラーに紫を選んだのは正解だったように感じられます。 私たちも「オリジナリティーあふれる人」「感性が豊かな人」という印象を与えたい時や、クリエーティブな雰囲気を演出したい時は、ファッションに紫を取り入れてみるのが効果的です。ただし、主張が強い色なので、ビジネスシーンに取り入れるなら淡いトーンを選ぶとよいでしょう。 男性の場合は、ネクタイやポケットチーフ、腕時計のベルトなどでさりげなく「ひと味違う」ムードをアピールするのがよさそうです。女性の場合はスカートやパンツなど、ボトムスに持ってくると品よく仕上がります。 また、紫は「ミステリアス」「捉えどころのない人」という印象を与える可能性があるので、初対面の挨拶をするときなどはあまり向かない色とされています。とはいえ、これはあくまで一般論。この連載の第1回(「印象は色で決まる ビジネス小物、テーマカラーで演出」)で述べたように、自分のテーマカラーを決めるのも、仕事上でのコミュニケーションをスムーズにするテクニックです。もしもあなたが紫を好きなのであれば、テーマカラーとして意識的に取り入れてみるのもよいと思います。
■蓮舫氏のチェリーピンク 強さを和らげる
さて、都知事選で3位につけた前参院議員の蓮舫氏といえば、普段は白のファッションが印象的ですが、選挙戦になると服やポスターにピンクを効果的に取り入れています。今回も明るく鮮やかなチェリーピンクをイメージカラーとして打ち出していました。 ピンクは女性性を象徴するカラー。優しさや思いやり、受け入れる力、包み込む力などを想起させます。チェリーピンクはこれらのイメージに加えて、アクティブで活発な雰囲気を演出することができるカラーです。 歯に衣着せぬ発言でおなじみの蓮舫氏にとって、チェリーピンクは自身の意気盛んな印象を残しながらも、時に見え隠れする激しさをさりげなく和らげる色といえるでしょう。色彩学の観点からすると、「思いやりをもって市民に共感する」という姿勢をアピールしたいという意図が隠れているのかもしれません。 ちなみに、小池氏の緑、また石丸氏の紫はいずれも原色同士が混ざった色(緑は青と黄、紫は赤と青)で、第2原色と呼ばれます。第2原色には合計3色あり、もう一つは赤と黄色を混ぜたオレンジです。色彩マニアの私としては、蓮舫氏がピンクではなくオレンジを選んでいたら、選挙戦の行方はどうなっていただろう?と、つい妄想してしまいます。ちなみに、オレンジは「オープンな人」「親しみやすい人」という印象を与えるカラーです。 そんな戯言はさておき、一つ言えるのは、上位3人の候補者が選んだのは「色の3原色」である赤・青・黄以外の色でした。すべての色の基本である3原色を取り入れて分かりやすいメッセージをパンと打ち出すというよりは、2つ以上の要素が複合的、多層的に絡み合うようなニュアンスをテーマカラーからも匂わせるというアピール術が目立つ結果となったわけです。 ひょっとすると、今の世の中、強くてシンプルなリーダーシップよりも、様々な人に寄り添う姿勢が市民から求められている、ということの表れなのかもしれません。 文:志村香織(ライフスタイルエディター&ライター、カラーセラピスト) イラスト:谷本ヨーコ