日本以外ボロ負け…スタバが中国でやらかした「失策」、強敵との差が埋まらないワケ
スタバがやってしまった決定的な「失策」
スターバックスの最大の特徴は、サードプレイス戦略だ。自宅と学校/職場以外の居場所を提供するという考え方で、快適な空間で上質のコーヒーを飲む体験がスターバックスの最大の商品になっている。 このため、店舗には一定のコストがかかるため、スタンド店とモバイルオーダーを中心にするラッキンやコッティのように、店舗数を急拡大することはできない。 さらに、2024年に入ってスターバックスは決定的な失策をしてしまった。それは、低価格競争にコミットしたことだ。 16時以降に使用できる「39.9元2杯」「49.9元3杯」のクーポンの販売を始め、ライブコマースでは「108元5杯」「249元10杯(グランデ)」などのクーポンも販売した。 客単価が30元台半ばであったものが、このようなクーポンを利用すると半額に近い20元前後で飲めるようになった。クーポンは売れに売れたが、結局はスターバックスのブランド価値を損なうことになってしまった。 33元だったコーヒーが20元で飲めると消費者の心理は20元にアンカリング(先に与えられた情報によって無意識のうちに判断が左右されてしまう現象)されてしまう。 クーポンが終わり、もとの価格に戻ると、以前は感じなかった「高さ」を感じてしまうのだ。店内で座ってゆっくりと味わえるならともかく、満席でテイクアウトするしかないのであれば、その場でラッキンかコッティにモバイルオーダーしてしまう人が増え、客数も減ってしまった。
低価格競争を制するラッキンが利益を出し続けられる理由
一方、この激しい低価格競争に対応しながらも、ラッキンは利益を出し続けている。コッティとの価格競争の影響で2024年Q1には赤字を計上したが、それ以前は8四半期連続の黒字であり、最新の2024年Q2では1.45億ドルという過去最高に迫る黒字を計上している。 ラッキンの強さの秘密は、製品イノベーション力だ。毎年100程度の新メニューを次々と投入している。2023年は102種類の新メニューを投入し、1億杯以上売れたメニューが8種類もあった。手数が多く、その中から定番になるメニューが出てくる。 カフェに限らず、外資系外食チェーンが中国チェーンに敗退をしてしまう理由が、この手数の違いだ。外資系チェーンは知名度があるため一度は来てくれるうえに、オープン時には割引クーポンも配布するため長い行列ができる。しかし、次に来た時に新しいメニューがないと飽きてしまって、別の店に流れてしまうのだ。オープンでは話題になってもリピートが取れないのが外資系チェーンの典型的な失敗パターンになっている。 ラッキンは創業以来、製品イノベーション力こそ自社の強みと認識して体制強化を図ってきた。新製品は主に4つの部署が連携して開発される。 1)分析チームが顧客層が好む食材をリストアップ。ラッキンはほぼ100%モバイルオーダーであるため、顧客のプロフィール情報を細部まで把握している。ここから見込みのありそうな食材、飲料をリストアップし、レポートを作る。 2)研究開発チームが新製品を企画。開発チームは3つから4つあり、常に競い合っている。分析レポートを参考に新製品を研究開発する。標準開発期間は2カ月だが、1チームが並行して5種類から6種類の開発を行っているという。 3)評価チームがサンプルを製造し、社内テスト、店舗でのテスト販売を行い評価をする。評価はすべて数値化され、客観的な採点ベースで発売を決定する。毎週5種類から6種類の新製品が常にテストされている。 4)生産チームによる標準化。発売が決まると生産チームが調理手順を標準化し、調理マニュアルビデオを制作し、スタッフへの告知や研修を行う。 この製品イノベーションで重要な役割をしているのが、大学などの校内にあるキャンパス店だ。大学などは休みの期間が長く運営が難しいため、避ける飲食チェーンも多いが、ラッキンは積極的に出店している。校内店は全体の6.41%だが、学校近くにある店舗も含めると11.93%になる。 学生は大学で初めてコーヒーを飲む習慣を身につける人が多いため、長期のブランド戦略にもなっているが、テスト販売店としての役割が大きい。学生は新しいものに積極的であり、感度も優れている。今やラッキンの顔ともなっているココナッツラテも、キャンパス店での評価が高く、一気に全国展開をして成功した事例だ。 この製品イノベーション力によって経営状態も改善している。ラッキンの販売単価(直営店売上/販売カップ数)の推移を見ると、9.9元の低価格販売をしながらも、15元台をキープできている。9.9元のコーヒーも売れているが、高価格帯のアレンジ飲料も購入されていることがわかる。