愛知県美術館「わいせつ写真に布」の波紋
意見はまた匿名の電話が多く、問題が報じられた1週間ほどは集中しましたが、今はほとんどないそうです。高橋副館長はネット上の署名運動なども把握しつつ、美術館への批判は覚悟していたほど厳しくはなかったと言います。 「そもそも美術館はわいせつとは考えていませんでした。5年ほど前にも同じような展示をしていましたし、今回も事前に弁護士と協議、公然わいせつには当たらないと言われていました。その上で、ただし書きやカーテンで仕切るゾーニングなどの対応をとっていたのですから」。 しかし、発端となった匿名の通報についてはじくじたる思いを表します。「鷹野さんの作品はヌードという表現とともに、撮影者自身も写り込むことで従来の『撮る、撮られる』という関係を崩します。それだけに見慣れない作品として驚かれたのかもしれません。それを直接言ってくれればこちらも意図を説明するなどのコミュニケーションができたのに、突然、警察への通報という形になってしまいました。警察も通報されれば無視はできない。『見えるか』『見えないか』という一線で妥協することになりました」。 今後の対応、教訓については「作家も撤去という形で問題を覆い隠すわけでなく、痕跡を残したいと、布をかけるなどして、それ自体が作品として成り立つようにしました。布の位置や、しわの寄り方なども気を配って丁寧な仕事をしていました。ベストではなかったかもしれませんが、美術館として作家の意図を尊重し、支えることができたと思っています。美術館の役割は多様な価値観を見せること。来館者への説明に課題は残りましたが、安易に自主規制する方向には走りたくない」と強調しました。 ■息苦しい社会の表れか 昨年、同美術館を中心に開かれた国際美術展「あいちトリエンナーレ」で芸術監督を務めた東北大学の五十嵐太郎教授も「トリエンナーレでこうした通報があったら、私も今回と似たような対応をとっていたかもしれない」と話します。