広島の平和式典のハト、昨年はピーク時の6分の1に減少 今年は?
8月6日の原爆の日、広島市中区である平和記念式典では平和の象徴、ハトが放たれる。このハトはレース用の伝書バトで、毎年県民たちがボランティアで提供している。近年は数が減っており、昨年はピーク時の6分の1の250羽だった。例年、放鳩(ほうきゅう)の数が分かるのは式典の前日。今年はどうなるのだろうか。 【写真】過去の平和記念式典、過去の放鳩の様子は?(1970年代~)
■「1500羽のハトが空に舞う」との記述も
市は5月上旬、昨年貸し出しに応じてくれた5団体などに依頼状を送った。昨年18羽を貸し出した細川清さん(79)=熊野町=に尋ねると、体調を崩して入院中だった。「式典までに退院したいが、こればっかりは分からん。7、8羽くらいは持って行ける優秀なハトがおるが…」と漏らす。 細川さんは日本伝書鳩協会理事で呉支部の相談役を務める。レースが生きがいで、60年余り育ててきた。餌やりは息子に任せているが、訓練ができておらず、秋のレースに出られるか分からないという。 昨年の放鳩数は、この10年で最も多かった2017年の計518羽に比べ、ほぼ半減した。1974年7月22日の中国新聞夕刊には「最近の式典では1500羽のハトが空に舞う」との記述があり、今の6倍のハトが集まっていたという。確かに同年や78年の式典の写真は、空がハトで埋め尽くされている。
■飼い主高齢化、金銭的な負担も
減少の背景には、飼い主の高齢化がある。レースは、帰巣本能を生かして指定の場所から鳩舎(きゅうしゃ)まで戻る時間を競う。距離は百キロから千キロまでさまざまあり、遠方に出向いてハトを放す訓練は大変だ。金銭的な負担もある。レース参加費、交通費…。餌代も、ロシアによるウクライナ侵攻の影響などで高騰している。 鳴き声やふんに伴う近隣からの苦情で飼育を諦める人もいる。細川さんが所属する呉支部の会員数はピーク時の約130人から数人にまで減った。式典にハトを提供した飼い主も2017年の32人から昨年は16人に減少した。 ハトも受難の時代だ。タカに襲われるケースが増えているという。「環境が変わって餌のヘビやカエルが減ったのかも」と細川さん。昨年式典に貸し出した1羽も被害に遭い、死んだ。知人からも同じ話を聞くという。 飼い主が会場にハトを運び込むのは、式典の前日。「ハト番」と呼ばれる市職員が猫などに襲われないよう朝まで交代で見守る。市長の平和宣言の後にハトが放たれる光景は1947年の「第1回平和祭」に始まり、定着した。当初飛び立ったのは10羽だった。 父の代から提供を続ける同協会広島支部長の岩田猛典さん(67)=南区=は今年も、昨年同様に20羽ほどを提供する予定だ。「広島に暮らす使命感。育てている限り、平和の願いを込めて協力を続けたい」―。毎年当たり前のようにある光景は、ボランティア精神によって支えられている。
中国新聞社