「アイドル時代に経験した『魂が揺さぶられる感覚』を感じた」北原佐和子 准看護師資格を取得し週4日介護に従事する今
最初のころは女優の仕事に繋がりそうな日舞、三味線…ほかにもスポーツなどの習い事をしていましたが、どうもしっくりこない。どうしようか悩んでいたときに、あの大雨の日のことを思い出したんです。それで福祉の仕事に携わってみたいと思いました。40代になりやりやっと重い腰を上げ、知り合いに勧められたホームヘルパー2級(現・介護職員初任者研修)を取ることにしたんです。
■女優業との両立で難航した勤務先探し ── 実際に介護の仕事を始めたのはいつごろなのでしょうか?
北原さん:42歳のときです。いろいろな介護事業所が掲載されている冊子をもらったので、片っ端から連絡してみることにしたんです。 といっても、私が決めた条件はかなり厳しくて。まず、認知症の方に対応していない事業所を探しました。いまでこそ認知症専門病院で勤めている私ですが、当時は、認知症の方に対していい印象を抱けませんでした。というのも、ホームヘルパー2級の資格を取るための実習で、職員の方に「認知症の方には近づかないでください」と言われたんです。
当時の私は研修中で、座学でしか認知症について学んでいなかったため、まだまだ知識不足でした。そのような状態で利用者の方の意思にそぐわないコミュニケーションを取ってしまい、トラブルが起きてしまうと大変だという配慮からの言葉でした。ただ、私としては認知症の方に接してはいけないと言われた経験がしばらくトラウマになっていました。 また、勤務後に女優の仕事が入ったら困るので、汗をかくような入浴介助のない事業所に絞りました。できれば女優の仕事の隙間時間に介護の仕事をしたかったのですが、それだと「シフトが組めないから困る」と言われ、働くところがなかなか決まりませんでした。
ただ、最後の最後にダメ元で電話をした事業所に「とりあえず来てみたら?」と言われて。ちょうど、ほかの方が辞めたタイミングで人員不足だったこともあり、「来られるときに来てくれればいい」という条件で働かせてもらえることになったんです。 ── 介護と女優の仕事の両立は大変なのでは? 北原さん:8時~11時半まで介護の仕事をしてから舞台稽古に行く日もあれば、撮影後に遠方から戻ってきて夜勤に入る日もありました。入浴介助は当初は希望していなかったのですが、1対1で時間をかけて脱衣所やお風呂場など同じ空間にいることで、利用者さんのことをもっと知ることができると気づき、途中からやることにしました。仕事はハードでしたが、楽しかったです。私にとって介護は、アイドルのときに歌を聴いて喜んでくれるファンの方と接するのと似た感覚でした。まさに「魂が揺さぶられる体験」ばかり。