初出場、長年ブランク… 顔ぶれ変化の背景は? 秋の高校野球
熱戦が繰り広げられている秋季高校野球地区大会は、例年と顔ぶれが変わった印象がある。関東や近畿では初出場校や長年のブランクを埋めたチームの活躍が目立つ。現場の監督たちからは「夢を見られる」「格上相手にも勝機を見いだせる」との期待の声が上がる。躍進を支えるのは「軟投派左腕」の存在だ。 ◇躍進支える「軟投派左腕」 関東大会は春夏通じて甲子園出場経験のない2校がベスト4に食い込んだ。準々決勝でぶつかったのは、24年ぶり出場の浦和実と初出場のつくば秀英。ともに県大会を初めて制したチーム同士の対戦は、浦和実が2―0で勝利した。 原動力となったのが浦和実のエース左腕・石戸颯汰投手(2年)だ。直球は常時120キロ台だが、80キロ台のカーブをうまく織り交ぜて4安打完封した。 「球の速さでは勝てないので、見えにくさやコントロール、変化球で勝負したい」と話すように、肩付近まで足を高く上げて左腕を隠すような独特な投球フォームで相手打線を幻惑した。 埼玉県大会では浦和学院や聖望学園という甲子園経験校を破ってきた辻川正彦監督は「ストレートを狙われてもなぜか捉えられない。力のある強いスイングをする選手には余計にそう(感じるよう)なんですよね」と不思議そうだった。 大会初勝利から4強まで駒を進めた千葉黎明(千葉1位)は「左腕リレー」が光った。2023年春のセンバツ大会王者の山梨学院(山梨1位)と対戦した準々決勝では、先発した飯高聖也投手(1年)、2番手の米良康太投手(2年)の両左腕が計7回を2失点(自責点1)にまとめ、最後2回は右腕・岩下竜典(1年)が無失点で締めた。 左腕の育成に力を入れてきた中野大地監督は「右打者の(内に)入ってくるボールを投げられるのが左投手の長所。高校生ではそのボールをさばけるバッターをあまり見たことない」と話す。飯高、米良の両左腕投手の球速はいずれも130キロに満たないが、積極的に内角を突く投球で持ち味を存分に発揮した。 近畿大会でも緩い球を巧みに操る左腕が際立った。初出場の滋賀短大付(滋賀2位)は1回戦で19年夏の甲子園覇者である履正社(大阪1位)を4―1で破って8強入り。エース左腕・桜本拓夢(ひろむ)投手(2年)は120キロ前後の直球とチェンジアップで外角を制球良く突き、7安打1失点で完投した。履正社打線はその球を面白いように打ち上げた。 準々決勝では、甲子園で春夏通算優勝3回を誇る天理(奈良1位)に1―4で敗れたものの、終盤まで互角だった。桜本投手は「コースを突けば長打は少ない。(自分の投球スタイルが強豪に)通用することがわかった」と手応えを口にする。 ◇低反発バット生かした戦略 今春から高校野球で導入された新基準の低反発バットを利用した「戦略」でもあった。保木(ほうき)淳監督は「今までは体が大きくスイングの速い選手が、外角の球をコツンと当てたのが逆方向に飛んでいったが、このバットでは全く伸びない」と指摘する。履正社戦では映像を分析した上で、外角中心の配球をバッテリーに指示したことが奏功した。 メンバーの半数以上が身長160センチ台と小柄なチームだが、粘り強く守り、小技を駆使しながら少ない好機をものにするスタイルを磨く。保木監督は「うちみたいに力のないチームでも工夫すれば夢を見られる」と実感を込めた。 他地区でも「新顔」の台頭が目立つ。中国大会では公立校の矢上(島根3位)が初の準決勝へ駒を進めた。選手11人の大田(島根4位)は38年ぶりに勝利を挙げた。九州大会ではともに公立校の育徳館(福岡2位)と壱岐(長崎2位)が初出場初勝利で8強入り。創部3年目のエナジックスポーツ(沖縄2位)は初のベスト4に入った。 秋季大会は例年、新チームが結成されて間もない上に実戦経験も少ないため、打線の調子は上がりにくい。さらに今年は低反発バットの導入によって投手有利の傾向が出ている。 現場の印象はどうか。29年ぶりの大会勝利を挙げた大阪学院大高の辻盛英一監督は左腕投手について「近畿大会まで勝ち上がると、130キロでも遅いと思う中でタイミングが狂ってしまう。転がそうと思っても上から球がくるのでかち上げてしまう。低反発バットが影響していると思うし、これから110キロ台の左投手が活躍するかもしれない」と言う。 14年ぶりに東海大会を制した大垣日大(岐阜1位)の高橋正明監督は「どこも簡単に打てなくなった分、投手中心にきちんと守ることができるチームが有利になり、チャンスが広がったのは間違いない。秋の段階ではまだ体も技術も伴っていないので特にその傾向が強くなる」と見る。 明徳義塾(高知)の馬淵史郎監督は「バットが変わって野球が変わりつつある。ランナーをためてスコーンというのばっかりじゃない。より基本通り野球をやるということで、いいことじゃないか」と話す。 各地区大会の成績は来春の選抜大会の出場校を選考する際の資料となる。センバツ大会にどのような顔ぶれが並び、甲子園にも好左腕が出現するかに注目が集まる。【高橋広之、長宗拓弥】