トランプ再び(1)「革命期」の米国:政治思想史から見た大統領選
日本の政治混乱も必至
2016年政変以降、フェーズが変わったからこそ、20年大統領選でトランプから政権奪取した民主党のバイデン大統領も、インフラ投資、関税、産業政策など数多くの中間層重視の政策でトランプ政権を引き継いだり、アイデアをまねたりした。ついには対立点とみられた不法移民対策も、バイデン、ハリスともにトランプと変わらぬ強硬策に転じた。つまり、16年以降は最も重要な経済政策分野においてはトランプ(ないしサンダース)型の政策でなければ、通用しなくなってきている。バイデンというのは旧体制の最後の生き残りのような政治家で、ハリスもその流れだ。トランプ型政治を実行することで生き残ろうとしたが、結局、今年の選挙で有権者に拒否された。 共和党側も、16年政変で思わぬ勝利を収め成立したトランプ政権を抑え込もうと旧体制側から送り込まれ閣僚らが数多くいたが、徐々に駆逐された。今回の大統領選で共和党はほぼ完全にトランプ化したとみてよい。来年1月に発足する第2期トランプ政権は、旧体制(レーガニズム)との訣別を一層はっきりと打ち出すことになる。ポンペオ前国務長官とヘイリー元国連大使を次期政権で登用するつもりはないという異例の声明をトランプが公表したのは、そのことの証しでもある。 トランプ型政治とは(1)経済ナショナリズム、(2)国境管理強化、(3)アメリカ(の国益)第一の外交安保──といったところに要約できる。第2次世界大戦後、アメリカが主導してつくりあげた国連、GATT(のちにWTO=世界貿易機関)、国際通貨基金(IMF)といった世界システムと、それによって発展した自由で開かれた国際秩序はすべて上記の3方針に従っている限りにおいてしか、アメリカにとって必要なくなる。その他のアメリカの国際的約束も同じだ。それが新しい時代の世界とアメリカの姿だ。 英誌『エコノミスト』が今回のトランプ再選を受けて、フランクリン・ローズベルト以来最も重大な意味を持つ大統領になると論じたのは正しい。ニューディール体制のアメリカが中心になって第2次世界大戦後つくられて世界システムは終わる可能性があるからだ。 日本がなすべきことは、上記を覚悟した上で、トランプ現象を生みだした原因であるグローバル経済・社会に起因する格差問題を、米欧さらには新興国・途上国を巻き込んでどう解決していくか考え抜いて、世界に提示していくことだろう。トランプ時代の独自防衛力などというより、こちらの方がはるかに重要だ。日本自体もすでに格差問題(特に世代間)は起きており、やがて政治混乱に至るのは必至でもあるからだ。
【Profile】
会田 弘継 ジャーナリスト・思想史家、共同通信客員論説委員。1951年生まれ。東京外国語大学卒。共同通信でジュネーブ支局長、ワシントン支局長、論説委員長を経て青山学院大学教授、関西大学客員教授を歴任した。著書にこの7月出版された『それでもなぜ、トランプは支持されるのか』(東洋経済新報社)のほか『破綻するアメリカ』(岩波書店、2017年)『増補改訂版 追跡・アメリカの思想家たち』(中公文庫、2016年)など。