トランプ再び(1)「革命期」の米国:政治思想史から見た大統領選
2016年が転機
20世紀においては、1930年代に民主党主導の政変で生まれたニューディール体制はアイゼンハワー、ニクソンというニューディール型共和党大統領時代を含め約40年間続いた。そこで行き詰まり、80年代に共和党によるレーガン革命を経て「小さな政府」と積極対外関与による「ネオリベラル・ネオコン」型に転換した。それがまたクリントン、オバマというネオリベラル型民主党大統領の時代も含めて40年ほど続いて、とてつもない格差と中間層の崩壊をもたらして破綻し、2016年大統領選で一種の政変を引き起こした。そう考えるべきだ。それがトランプ、サンダース現象である。大衆の怒りを受け止めて、外部から2大政党に乱入したような政治家が大統領候補になったり、なりかけたりして、16年以来、米政治を根底から揺さぶっている。 ニューディール型時代からネオリベラル・ネオコン型時代への転換は、第2次世界大戦と冷戦を経ながら卓越した地位を築いた20世紀アメリカがつくりあげた世界システム(いわゆる「リベラル・インターナショナル・オーダー」)を前提とした。だが、今度は様相が違う。そのシステムを前提として生まれたグローバル経済と社会が、その後ろ盾であるアメリカ自身に牙をむいて襲いかかった。9.11テロとリーマン危機だ。 前者は20年に及ぶ、米国史上最長のアフガニスタン・イラク戦争を、後者は極限的に広がった経済格差を米国社会にもたらした。リーマン危機後のオバマ政権が政治資金源としていた金融機関の救済を優先する一方で、1千万件の住宅ローン破産を救済せずに放置したのが、格差の急拡大につながった。 結果、1%の超富裕層が米国の個人資産合計の4割近くを独占している。ジェフ・ベゾス、ビル・ゲーツ、ウォーレン・バフェットの3富豪の個人資産合計が、米国の下位50%(人口で約1億7000万人)の個人資産合計に匹敵するような格差だ。まともな国とはいえないだろう。封建社会のようなものだ。 長期化した戦争と経済破綻で疲弊し没落するまま捨て置かれた中間層の怒りが一挙に爆発したのが16年であり、この政変以降はアメリカ政治・社会は、新しいフェーズに入った。長期戦争と経済破綻をもたらした、1970年代末以来の民主・共和両党によるネオリベラル・ネオコン体制(レーガニズム)は、トランプ現象を受けて登場した新しい右派思想(「ニューライト」と呼ばれる)によって全面否定されている。 9.11後の軍事・外交を牛耳ったネオコン思想家(ビル・クリストルが一例)と彼らを使った政治家(チェイニー元副大統領が一例)は、今回の大統領選で民主党に付いている。ただ、その民主党側にも16年には同党のネオリベラル・ネオコン化に対する反動としてサンダース現象が起き、社会民主主義という形でニューディール政治を取り戻そうという揺さぶりが続いている。