リモートワークを認めない上司の言い分「対面でないと伝わらない」「アイデアは雑談から生まれる」「信頼関係が築けない」が間違っている理由
『つながらない覚悟』#2
コロナ禍で世の中に普及した、リモートワークという働き方。オンラインには明らかに多くの利便性がある。しかし、リモートワークから原則出社に戻したいと考える上司や会社が世の中に一定数存在することも確かだ。社員にリモートワークという選択肢を与えず、出社を強いる会社の狙いは果たして何なのだろうか。 【画像】リモートワークから原則出社に戻したいと考える上司
ベストセラー『嫌われる勇気』の共著者・岸見一郎氏の『つがらない覚悟』(PHP新書)から一部抜粋、再編集してお届けする。
「対面の会議でないと信頼関係を築けない」という人たち
リモートワークがすべての仕事に適用できるわけではないが、仕事をするために同じ場所に集まって対面しなくてもいいということに最初はとまどった人も多かっただろう。人から監視されているわけではないが、人目があるから仕事をしていた人は、一人で仕事をするのは容易でないと感じるかもしれない。また、人目がないため、仕事をさぼろうと思う人もいるだろうが、しなければならない仕事はあるのでさぼってばかりもいられない。 どのように仕事を進めるかは人それぞれである。すぐに仕事を終える人もいれば、長い時間をかける人もいる。私は哲学の試験監督をしたことがあるが、普段あまり熱心に講義を聞いていない学生はすぐに答案を書き上げて教室から出て行った。他方、私の話に関心を示し質問をする学生は、時間一杯かけて答案を書く。仕事も同じである。すぐに仕事を終えるからといって、有能とは限らない。有能な人は速やかに仕事を仕上げるが、長い時間をかけじっくりと考えることもある。もちろん、時間をかけても仕事ができない人はいるが。 一日をどのように使うかも人それぞれである。時間に縛られずに仕事ができるのが在宅勤務の利点である。朝早く起きるのが苦手な人は、起きるのは遅くても夜遅くまで仕事をする。 最初はとまどうかもしれないが、在宅での仕事が思いがけず快適で、仕事も進むのであれば、リモートワークを続けたいと思う人は多いだろう。
雑談からアイディアが生まれるという噓
ところが、リモートワークの継続を願わない人がいる。新型コロナウイルスの感染者数が減ったわけでもなかったのに、会社として原則出社に戻すという動きが出てきたのは早かった。しかし、元の仕事環境に戻ることを皆が喜んでいるのかといえばそうではないだろう。リモートワークの利便性を一度経験してしまうと、従前の働き方に戻るのは難しい。 リモートワークの導入で自宅で仕事ができるようになり、仕事の合間に洗濯物を干していたら、何と人間的な生活をしているかと思ったという人がいた。リモートワークではなく出社することを求める会社は、部下から人間らしい生活を奪おうとしているのである。 原則出社に戻したい上司にもそれなりの理由がある。仕事は対面でないとできないと考えるのである。仕事それ自体は自宅でできないわけではないが、顔を合わせてする無駄話からよいアイディアが浮かぶという人もいる。 いずれも本当ではない。リモートワークができる仕事であれば、対面しなくてもできる。「顔を合わせてする雑談からよいアイディアが浮かぶ」という人は、本当にただ雑談をしているのである。 多くのよいアイディアは一人の時に思い浮かぶ。誰かと話をしていたにもかかわらず、よいアイディアが思い浮かぶというのが本当である。よいアイディアが思い浮かばない時は、何をしても浮かばない。よいアイディアが浮かばない人が、対面での雑談がないことにその理由を求めているだけである。