<北朝鮮内部>通貨ウォンが急落 対ドルは年初の半分に 深刻な外貨不足が原因か
◆輸出不振の構造は変わらず
額面上は北朝鮮の対中国貿易は急回復している。2024年度1~8月の対中輸出額は2億2741万8000ドル。パンデミック前の2019年の1年分の輸出額2億1519万7000ドルを上回った。 今年8月までの輸出のトップ品目は、制裁対象ではない「カツラなどの毛製品」で、1億3002万5039ドルで全体の57%強を占める。これは、北朝鮮で「賃加工」と呼ばれる委託加工貿易だ。原材料を中国から仕入れ、完成品に仕上げて中国に輸出するわけだ。 だが、これは輸出が伸びるだけ原材料の輸入が増える構造になっている。今年8月までに原材料として輸入された「加工済の人髪、かつらなど類似品に使われる羊毛など」は1億1549万4703ドルに及ぶ。つまり単純計算すると、原材料費を差し引いた1453万0336ドルが黒字であるが、これは「カツラなどの毛製品」の輸出額のわずか11%にすぎない。額面は大きくても利が薄いことが分かる。 ※対中貿易額は中国の税関総署発表の統計値による。 さらに、この「賃加工」の利益も、北朝鮮国内に外貨として入って来ていないと、B氏は言う。 「『賃加工』で稼いだ収益は現金ではなく、建設資材や食糧の現物で国内に流入しており、外貨不足は今後も当分続くだろう」 またB氏は、次のように言葉を続けた。 「トンチュたちは7月末に北部で発生した大水害に対し、金正恩が海外から支援を受けようとしないことに対して強い不満を持っている。復旧作業に用いる資材を輸入しなければならず、外貨難に拍車がかかるからだ」
◆地下送金も外貨ではなくウォンで届ける
金正恩政権による強力な外貨使用統制によって、韓国や日本にいる脱北者が北朝鮮に住む家族に地下銀行を通じて送金するのにも変化が生じていることが分かった。 元来、送金ブローカーは、手数料を引いて北朝鮮内の家族に中国元や米ドルなどの現金を届けてきた。しかしBの他、複数の取材協力者によると、最近は、相応額の朝鮮ウォンに交換して届けているという。 その理由は、外貨を使ったことが発覚した場合、その入手元まで厳しく追及されるため、ブローカーが連座して捕まることが増えているからだという。8月12日には、両江道で脱北者の家族から人民元を受け取った人がお金を使おうとして捕まり、脱北者の家族、ブローカーまですべて連行された事件があったという。 ※アジアプレスは中国の携帯電話を北朝鮮国内に搬入し連絡を取り合っている。