【やさしく解説】 「人口消滅」「ブラックホール」過激な自治体ランキングなぜ?◆魅力ある街とは…【時事ドットコム取材班】
企業経営者や大学教授ら民間の有識者でつくる「人口戦略会議」(議長・三村明夫日本製鉄名誉会長)が、人口推計に基づいた全国自治体の持続可能性について分析したところ、「消滅可能性自治体」が744に上ると発表した。新たに、聞き慣れない「ブラックホール型自治体」も登場。「消滅」「ブラックホール」ってどういうこと?(時事ドットコム取材班・編集委員 豊田百合枝) 【リンク】「消滅可能性自治体マップ」であなたの町をチェック ―「消滅可能性自治体」って聞き慣れない言葉だけど、一体何? 出産する年代の女性人口が減ると、子どもや若い人が減っていき、最終的には住む人がいなくなるのではないかという考え方が基になっていて、出産する年代の女性が大きく減ると予測された市町村は「消滅の危機」にあると定義した。具体的には、出産の中心世代とされる20~39歳の女性が2020年から50年までの30年間に50%以上減る見通しの自治体のことで、全国1729市区町村の4割以上にあたる744の自治体が名指しされた。 ―消滅する可能性のある自治体は増えたの? 10年前の14年に「日本創成会議」(増田寛也座長)が同じような推計を出した際には、896が消滅可能性都市として挙げられていた。数では減っているが、今回戦略会議で副議長を務めた増田氏は4月24日の記者会見で「少子化の基調は全く変わっていない」と指摘している。 ―10年前と今回の調査で異なる点はあるの? 前回は、都市部に人が引っ越していく「社会減」に着目していた。各自治体が、競うように移住促進策などの対策を打ち出した結果、若い人たちを近隣の自治体で奪い合うような状況も見られたらしい。こうした状況も踏まえて、今回は14年の分析手法を踏襲しつつ、出生と死亡だけの要因で人口が変化すると仮定した「封鎖人口」という推計も重視した。いくらその地域に若い人が移り住むようになっても、出生率が低いと人口は減っていくためだ。 ―地方によって差があるの? 東北地方は、消滅可能性自治体が165と全国最多で、北海道も117と多い。一方、中国・四国地方は消滅自治体から脱却したところが目立つ。関東は91、近畿は93で、最も少なかったのは、九州・沖縄の76だった。おおむね「西高東低」という状況だ。 ―前回の消滅危機から脱した自治体は? 北海道・旭川市や愛媛県・今治市など、全国239自治体が脱却した。女性1人が一生に出産する子どもの数を示した「合計特殊出生率」が上位となっている島根県では、海士町など12自治体が脱して4つに減った。鹿児島県の離島で、空港の愛称が「子宝空港」とユニークな徳之島町も危機リストから抜け出した。 前回、消滅危機リストに入り、話題を集めた池袋のある東京・豊島区は、若者を集める対策などを進めた効果か、若い女性の人口推計が改善し、対象から外れた。ただ、今度は「ブラックホール型自治体」に入った。 ―「ブラックホール型自治体」って何? 人口の増加分を他地域からの流入に依存していて、出生率が低い都市圏の自治体のことだ。具体的には、移動による減少率が50%未満と比較的低い一方で、出生と死亡で見る「封鎖人口」は50%以上減っている自治体をピックアップした。 東京では、豊島区のほか、世田谷区や目黒区など16区、千葉県浦安市や大阪市、京都市といった25の自治体が該当した。若者がどんどん集まってくる大都市の特権を、皮肉を込めて宇宙空間で星を吸い込む「ブラックホール」になぞらえたのかもしれない。 豊島区では、子育て施策も講じたけれども「封鎖人口」の減少率は大きかった。人口戦略会議は、該当する大都市は「出生率向上という『自然減対策』が急務だ」と指摘している。 ―出生率が大事なの? 出生率が上がらないと、人口減少に歯止めは掛からないから、社会全体に関わる重要な要素といえる。子どもを育てやすい環境をつくることは大事なことだ。ただ、産まない理由の分析も大切。産み育てづらい環境があるのか、学業など別の理由で産まないことを選択しているのか、さまざまな要因がありそうだ。独身でいることや結婚しても子を産まない選択肢もあり、人々の生活や価値観は多様化している。 ―消滅せず持続可能な自治体もあるの? 若い女性の減少割合が、移動による減少と、出産・死亡による自然減のいずれも20%未満であれば、100年後も若年女性が5割近く残るため、持続可能性が高いと考えられている。こうした「自立持続可能性自治体」も65あった。 例えば、自動車メーカーの工場がある宮城県・大衡村には、半導体工場の建設計画もあるといい、企業誘致などで働く場所を確保できることは、1つの大きな要素となりそうだ。千葉県流山市は、東京への通勤が比較的便利で、行政が保育所の「待機児童ゼロ」対策に積極的に取り組んでいる。大きな商業施設に広い歩道、公園も整備されていて、人口が流入している。 また、65自治体の半数以上にあたる34自治体が九州・沖縄県にあり、沖縄だけで17市町村に上る。なぜ九州・沖縄に集中しているのか、詳細な分析はこれからとされている。