シンガポールで日本人初の「鞭打ち刑」判決確定、執行へ…強姦事件の弁護人が語る現地「刑事司法」の実態
●犯行の直後に「盗撮罪」新設の改正刑法施行
――検察の求刑は 検察は18年の禁錮刑と鞭打ち20回を求め、弁護側は11年半の禁錮刑と鞭打ち刑8回を求めました。 双方の主張に開きがあるのは、シンガポールの刑事司法の事情もあります。 日本の裁判所では、たとえば「強制性交とリベンジポルノ法違反と住居侵入の罪を併せて懲役●年」など、複数の行為が罪に問われている場合、量刑は総合的に判断されます。 一方、シンガポールでは、たとえば起訴された犯罪が3つある場合には、そのうち2つの罪の量刑を合算し、残りについては同時に執行するとして実質的に無視されます。 検察側は一番重い罪(10年)と2番目に重い罪(8年)について求刑し、弁護側は重い罪(10年)と短い罪(1年半)を求めたわけです。 結果的に、裁判所は検察側の主張がふさわしいと判断しました。ただ、事件を担当した刑事が途中で交代したために、事件発生から4年経って起訴されたのは、あまりにも長すぎるということで、弁護側の減刑主張が認められ、少し刑期が短くされています。 シンガポールでは、同意の有無を問わず、わいせつな行為を撮影することは違法です。 「盗撮」については、現在、盗撮罪として罰せられます。しかし、犯行当時は改正刑法施行の直前だったため、盗撮罪には問われず、動画法(Films Act)に基づく卑猥な動画を作成した罪に問われました。 男性はスマホのインカメラで撮影していたので、厳密には「盗撮」に当たらないかもしれませんが、裁判になれば厳しくみられていた可能性はあります。
●逮捕→保釈→起訴初日からずっと刑務所収容…日本の「拘置所」はない
――男性は逮捕からずっと拘束されてきたのでしょうか 犯行翌日に逮捕され、警察の留置場に置かれてからすぐ保釈されています。 2023年になって起訴された初日に刑務所に留置されて、判決当日まで過ごしました。判決が確定してからも、受刑者として同じ刑務所に収容されます。 起訴されてから刑務所に入れられるのは、逃亡リスクなどを考慮したものです。ただし、逮捕されるとパスポートは没収されるので、そこまでの逃亡リスクは考えられません。 なお、刑務所の生活基準は、被告人でいる間は、受刑者よりも良いと言えます。髪の毛は伸ばせるなどの自由もあります。 判決と実際の刑期は異なっており、自動的に3分の2にディスカウントされます。これは再犯罪を防ぐ意味での運用です。 禁錮17年だとすると、大体11年くらいになります。未決勾留日数も算入されます。懲役刑と違って、労役のない禁錮刑ですが、受刑者が希望すれば働くことも可能です。 私が知るところでも、約6年の禁錮を言い渡された日本人の男性受刑者が刑務所で配膳の仕事をしています。安価ではあると思いますが、一定の収入が得られます。