五輪銅の清水聡が“消える左”で4度倒して世界へ
16戦無敗の挑戦者が、自分の距離をつかめない間に、清水は、きちんと自分の距離にして“ダイヤモンドレフト”と命名された必殺の左をぶちかます。 「試合を重ねるごとに良くなっている。今までで一番の内容だったかも」 ほとんど触らせずに勝ったのだから、清水の自画自賛も納得。欲を言えば、接近戦を想定して磨いたショートアッパーを試したかったとも言うが、本格的な筋肉トレーニングに取り組むようになって、またパワーアップした。 「体重は変わらないが、筋量が増えて脂肪が減り、代謝もよくなった。その分、ちょっと減量はきつくなったが」 清水は、直前の“水抜き”を使った減量ではなく、1週間前には、残り1キロにしておく計画型減量法。だからパワーもスタミナも維持される。 大橋会長は「ダイヤモンドだな。見せ場を作るのもプロらしい。来年は世界1本に絞っていく。チャンスがあれば次は世界」と断言した。 だが、フェザー級は軽量級の中でも激戦区だ。 WBAのスーパー王者のレオ・サンタクルス(メキシコ)は、3階級制覇の人気もある一級品ボクサーで、WBO王者は、24勝無敗(19KO)で日本の大沢宏晋も倒しているオスカル・バルデス(メキシコ)。IBF王者のジョシュ・ウォーリントン(英国)は、今月22日にレオ・サンタクルスに唯一土をつけたことのあるカール・フランプトン(英国)と防衛戦を行う。またWBC王者のゲイリー・ラッセルJr.(米国)は3度防衛中で3階級王者のワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)と激戦を演じたこともある。WBAの正規王者のヘスス・マヌエル・ロハス(プエルトリコ)は、8月に体重超過のジョセフ・ディアス Jr. (米国)に判定負けしたが、空位とはならず、WBAの新規約により王座保持となり、来年1月には中国人ボクサーとの防衛戦が決まっている。 「階級はやっぱりフェザーですね。相手? 誰でもいいですよ。サンタクルス? いいっすね」 自信の根拠になっているのが、バンタム級(56キロ)で銅メダルを獲得した6年前のロンドン五輪だ。 1回戦で辛勝した相手のアイザック・ドグボエ(ガーナ)は、現在、WBO世界スーパーバンタム級王者。11-20のポイント差で準決勝で負けたルーク・キャンベル(英国)は、ホルヘ・リナレスと熱戦を演じ、現在もWBC世界ライト級のランキング1位である。 「アマチュア時代にキャンベル、ドグボエとやっている。トップレベルとはもう間違いなくやっているんで。そんなに深く考えずに自分がやらないといけないことをやっていくだけ。12ラウンドはやったことがないが、体力に自信はある。(世界戦となると)パンチはもらうと思うが、クリンチだのいろいろな技術もある」 五輪の舞台で勝った、或いは互角に戦った相手が、今、世界の第一線で戦っている事実が、清水の心の拠り所でもある。 そして今、その清水にとっての原点である五輪でのボクシング競技が、よりによって2年後の東京五輪で存続危機となっている。来年6月のIOC総会で結論が出されるが、それまで五輪予選などの準備、イベントはすべて凍結となった。 「心配していますよ。日本だけでなく世界中のアマチュアボクサーがそこを目指している。そこがなくなるなんて……古代五輪からの競技がなくなるのは考えられないこと。五輪があったから、今の僕があるんです。おそらく選手は、存続問題が保留になって、不安を抱え、全力で取り組めないんだと思う。その気持ちはわかる。そういうことを気にせず練習をやってもらいたいし、僕が存続のためにやれることがあるなら、署名運動でもなんでもやっていきたい」 駒大、自衛隊出身の清水は、五輪を目指す後輩たちへ熱いメッセージを発した。 五輪メダリストの清水が、ロンドン五輪ミドル級金メダリストの村田諒太(帝拳)に続いて世界王者になれば、アマとプロが手を握ってスタートしている存続活動がさらに盛り上がるかもしれない。2019年は清水にとって己が何ものかを確かめる大切な1年になる。