【短期連載】a flood of circle、佐々木が15年目にしてたどり着いた境地と新曲に込めた思い
俺はロックンロールをやる資格はないのかもしれない
ーー実際、キャンプ場でレコーディングしてみて、手応えはどうでしたか? 「メンバーみんな楽しそうでしたよ。ナベちゃん(渡邉一丘/ドラム)、楽しそうに焚き火してたし」 ーーレコーディングしに行ってるんじゃないのか(笑)。 「はははは。でもそれも含めて、みんながやってないことを今一緒にやってる、一緒に悪いことをしてる(笑)みたいな、そういう結束は生まれたと思ってて。その企み感を共有できた気がするんですよね。スタジオだと、ああはいかなかったんじゃないかな」 ーーそこで録った曲の中から「虫けらの詩」を、野音でやって。 「あの曲で、お前らもやってらんねえことだらけだよな? 納得いかないこといっぱいあるよな? 俺もそうだよ。でもずっとここで唄ってるからな、ってことを言いたかった。別に環境が不幸なわけじゃないし、バイトもせずバンドができてるし、そこそこ恵まれてる。でもぼんやりと何かにムカついてて、報われてない気がしてる。スタッフが俺から離れるかもしれないってなった時も、〈またかよ〉って思いながらも、いい子でやりすごそうとしちゃう情けなさ。でもそういう俺みたいなヤツがいっぱいいると思ってて。だからそういうヤツらのために唄ってるし、それをみんなキャッチしてくれるだろうって、勝手に信頼してる」 ーーそうだね。 「15年近くバンドをやってきて、その期間ずっとじゃないけど、フラッドを聴いてきてくれた人たちがいて。みんなそろそろいい歳になって、社会のことも知って、〈まあ人生こんな感じだよな〉って納得しそうな自分と、〈こんなもんで終わりたくないんだけどな〉って自分がいて。そういうモヤモヤした人たちは、今俺が唄ってること、めっちゃわかってくれると思うんですよ」 ーーそれは俺も感じてます。 「なんとなく俺たちを知った人も巻き込んで、10万枚売って東京ドームに行きたいなんてことは思ってなくて。同じような気持ちで日々を悶々と過ごしてる、そんなヤツらと武道館で一緒になりたい。悩んで苛ついて傷ついてるけど、でも本気で笑いたい。そんな気持ちを捨ててない人に何かを投げてるかな」 ーーなるほど。 「今回、野音が売り切れたのって、いろんな要素があったと思うんですよ。『ふつうの軽音部』(註:少年ジャンプ+で連載中の漫画)で〈理由なき反抗 (The Rebel Age)〉を熱唱するシーンが、たまたま野音直前にあったのもそうだし、俺がケバブスやってることも大きいかもしれない。でもそうじゃなくて、華やかじゃなく、悶々としてた頃のフラッドを聴いてくれてた人がいっぱいいるわけですよ。その人たちとの間にある信頼、みたいなものを感じましたね」 ーー2年後に武道館をやる、って宣言したことも大きいんじゃないですか? 「そうですね。まあ定番の物言いですけど、人生1回きりなんで。それぐらいの博打はありでしょ(笑)」 ーーあとナベちゃんとサシ飲みして、このままダラダラ何年もバンドやるつもりはないから、って言われたこともね。 「そう。ナベちゃんが俺を追い込んでくれた気がしてて。でも、単なる承認欲求で武道館やりたいとかじゃなくて、ナベちゃんと少しでも長くバンドやりたいから、武道館にちゃんとたどりつきたい。そこがゴールじゃなくて、ギリギリまでバンドをやりたいんですよ」 ーーそうだね。 「俺みたいな普通なヤツは、ロックンロールをやる資格はないのかもしれない。見た目も普通だし、本気で狂えない。だから革ジャンとこの声で、資格があるふうに振る舞うしかない。これは辛いですよ。本気な人を見てるから、余計ね。でも、好きなんだからしょうがない。スピッツがロックバンドって言い続けてくれることに救われるけど、自分なりのロックはこうなんです。それしかない。だからずっとロックンロールって言い続けるつもりなんです。ロックンロールって言葉の語感って不思議で、大きな声で叫ぶと、すごく勇気づけられるんですよ。かめはめ波ーーー!みたいな感じ(笑)」 ーー無敵感、あるよね。 「それさえあれば、って本当に思ってて。だからこんな、日々悶々としてる、どうしようもない俺のロックンロールから〈こんなんでも俺は生きてるぞ! ずっとここで唄ってるぞ! だからお前も大丈夫だ!〉って伝わったらいい。それは嘘偽りのない、本音だから」
金光裕史(音楽と人)