ニュースでよく見る企業の「スクープ否定」--肯定しているの?否定しているの?
企業の合併や提携、新商品などをめぐるメディアのスクープ記事に対して、当事者の企業が「報道されたような事実はない」などと否定するコメントを発表することがよくあります。しかし、その後、やはり交渉が進んでいたり、新商品が発表されたりする場合もあります。過去の例を見てみましょう。 新商品発売をめぐっては、KDDIのiPhone発売に関する事例があります。2011年9月22日の日経ビジネスオンラインで「KDDI、『iPhone5』参入の衝撃」とするスクープ記事が掲載されました。これに対して、報道によると「当社が発表したことではなく、お話しできることはございません。ノーコメントということでお願いします」との回答でした。完全否定はしていないニュアンスで、ご存知の通り、auでも2011年10月からiPhone4Sが発売されることになりました。 NTTドコモのiPhone取り扱いをめぐっても、これまでに何度か報道が出ています。 2011年12月1日に、日経ビジネスオンラインが「ドコモ、来年夏にiPhone参入」とスクープ。それに対してNTTドコモは「現時点において、『iPhone』及び『iPad』の取り扱いについて、当社がアップル社と基本合意したという事実はございません」と明確に報道を否定しています。一方、今年9月6日にも日本経済新聞や朝日新聞が「ドコモがiPhone販売へ」と報じましたが、その際のコメントは「当社が発表したものではございません。また、現時点において、開示すべき決定した事実はございません」というものでした。 昨年5月15日には、日本経済新聞が「ソニーとパナソニックが有機ELテレビで提携交渉」とスクープ。これに対して、両社は「当社が発表したものではない」などとしましたが、この場合も完全に否定してはいないニュアンスです。結局、ソニーとパナソニックは6月25日に有機ELパネルの共同開発で合意したと発表しました。 このように、スクープに対して、否定も肯定もしないコメントは、スクープを暗黙に了解したようにもとれます。一方で、スクープを明確に否定しながらも一部事実だったケースもあります。 今年4月22日に日経が報じた「川崎重工と三井造船の統合交渉」のスクープ記事です。この報道に対して、川崎重工は「当社が発表したものではなく、そのよう事実もありません」と否定するコメントを発表しました。しかし、2カ月後に「交渉の事実はありますが、何も決まっていません」と内容を訂正。経営統合そのものは白紙になりましたが、交渉は実際に行われていました。 川崎重工の発言訂正の事例を受けて、東京証券取引所は「投資家を惑わせる」として、スクープ報道を受けた上場企業の「定形」的ともいえるコメントについて、より明確な表現を求めていく方向で、年内にも何らかのガイドラインをまとめるとしています。