高速の渋滞ゼロにするは? 混雑が大嫌いな教授が研究する「渋滞学」
名物教授訪問@東京大学
ゴールデンウィークや帰省シーズンに渋滞する高速道路、大勢の人で混雑するターミナル駅など、車や人、荷物などの流れを研究するのが「渋滞学」です。まだ新しい研究分野で、数理物理学が専門の東京大学大学院工学系研究科の西成活裕教授が切り開いてきました。研究にはどんな面白さがあるのでしょうか。 【写真】元日テレ・桝太一さん、研究者としての日々を語る
西成教授は数理物理学が専門です。数学と物理は相性がよく、数理物理学はその二つの中間のような分野ですが、数学とはどう違うのでしょうか。 「純粋数学は、もしかしたら100年後、200年後に社会課題を解決するのに役立つかもしれない学問です。一方、数理物理学は解決すべき課題や問題がすでに先にあって、それを数学や物理を使って解いていくので、今日明日にも役に立ちます」 数理物理学は、新型コロナウイルスの感染者がどのくらい増えるかの予測や、病院の看護師の勤務のスケジューリングなどにも使われ、実は私たちの生活は数理物理学に支えられています。この数理物理学を使って、西成教授が研究しているのが渋滞問題の解決です。このテーマにたどり着くまでに、どんな経緯があったのでしょうか。 「小さい頃から混雑が大嫌いでした。小学生のときに茨城から東京に出てきて、人の多さに酔って倒れたことがあるほどです。大学院では水と空気の流れを研究しましたが、古くから研究されているテーマなので、大抵の課題はすでに研究されています。困ったな、俺は何をやってるんだろうと、しんどくなったときに、頭の中で渋滞と水の流れがくっつきました。数理物理学で渋滞とか混雑を研究しているというのは聞いたことがない。渋滞という流れの詰まりを数理物理の力で解いてやろうと思いました」
苦難の末に生まれた「渋滞学」
しかし、研究は最初から順調だったわけではありません。学会で発表しようとすると、会場からみんなが出ていってしまい、司会者と自分だけが残されて悔し泣きしたこともありました。それでも博士課程を終えた直後に論文を書き上げ、「渋滞学」と名づけて本気で研究を始めました。 流れには車の渋滞や人の混雑のほかにも、物流という荷物の流れ、工場の在庫の流れ、体内の血液の流れ、会議の意思決定の流れ、はたまたアリの行列など、多種多様な流れがあります。西成教授のもとには企業や行政の担当者がさまざまな相談に訪れ、それぞれの課題を2、3年一緒に研究して成果を出すことを30年ほど続けてきました。 例えば、高速道路の自然渋滞は40メートルの車間距離をとることで解決できるそうです。 「車間距離が短くなると流れが不安定化します。流れが不安定化すると渋滞になります。以前は勘と経験で渋滞を予測していたことが多かったのですが、シミュレーションやデータ分析を通じて新しい法則を見つけることができました」 研究の過程では、約50台の車を借り、サーキットを走らせて実験しました。車の台数を増やしていき、車間距離が40メートル未満になると渋滞が発生することがわかりました。警察庁などの協力を得て、高速道路にパトカーを走らせて渋滞解消の実証実験もしました。車間距離を40メートルとるように呼びかける表示板を見たことがあるかと思いますが、それは西成教授の研究成果ともつながるのです。