ウソをつけないから、役を〝生きる〟 横浜流星、不器用役者の大河主演への道
2025年放送の「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」にてNHK大河ドラマ初出演にして初主演を飾る横浜流星。9月に28歳の誕生日を迎えた彼はいま、驚異的なスピードで次なるフェーズに向かっている。先ごろ発表された第49回報知映画賞では、最新主演映画「正体」で主演男優賞を受賞。同作は作品賞と助演女優賞(吉岡里帆)含めて3冠を達成しており、人気と実力を兼ね備えた分厚さは増すばかりだ。 【写真】「春の藤原まつり」に参加し、馬上から歓声に応える義経役の横浜流星=岩手県平泉町で2017年5月3日、和泉清充撮影
藤井道人監督との出会いと協働
キャリア初期に特撮ヒーロー作品「仮面ライダーフォーゼ」や「烈車戦隊トッキュウジャー」に出演し、19年放送の恋愛ドラマ「初めて恋をした日に読む話」でお茶の間に浸透……と、ここだけをみればブレークの王道を踏襲しているように思えるかもしれないが、横浜の歩んできたキャリアは決して順風満帆なものではない。トーク番組などで「何千回もオーディションに落ち、全く仕事がなかった」と語っているように、10代は不遇の時期も経験している。 そんな時に出会ったのが、後に「新聞記者」で脚光を浴びる藤井道人監督だ。共にオムニバス映画「全員、片想い」の別々のパートに参加していた両者は、打ち上げの席で初対面。その後横浜が藤井の監督作「青の帰り道」のオーディションに合格し、初タッグ作が始動するのだが……撮影期間中に出演者が逮捕されたことにより撮影は中断、一時はお蔵入りの危機を迎える。 しかし諦めずに代役を立ててなんとか再始動させ、口コミを中心に長く愛される作品に。以降、藤井監督×横浜はバディーとして映画「DIVOC-12」「ヴィレッジ」「パレード」、ドラマ「新聞記者」「インフォーマ」、ロックバンドamazarashiの「未来になれなかったあの夜に」「スワイプ」MVや湖池屋「ピュアポテト」ほか各CM等々、幾多のメディアでコラボレーションを続けてきた。そうした流れもあり、横浜の出演歴は独自性の高いものになっている。
「器用ではないから」ストイックな役作り
近年では、「悪人」「怒り」の李相日監督と組んだ映画「流浪の月」、そして瀬々敬久監督×佐藤浩市との映画「春に散る」で新境地を開いた。前者では広瀬すず演じる恋人に暴力をふるってしまうDV彼氏のゆがみや弱さを体当たりで演じ、後者では成長していく若手ボクサー役を吹き替えなしでやりきった(撮影後にボクシングのプロテストに挑戦し、見事合格)。 横浜の身体能力の高さは折り紙付きで、中学時代には極真空手の世界王者を勝ち取っており、ドラマ「DCU」の撮影に際してはスキューバダイビングのライセンスを取得。刑務所から脱獄した死刑囚に扮(ふん)した「正体」でも冒頭、救急車で護送されている際にやおら暴れ出し、逃げおおせるシーンや東京都内のマンションに潜伏中に警察に見つかり、窓から飛び降りて街中を疾走するシーンなど、見ごたえたっぷりのアクションに挑戦する。 そんな横浜の信条は、役を「生きる」こと。自分が役を〝かぶる〟ような感覚ではなく、自分ごと役にスライドさせるような〝同化〟に近いものだ。そのため、彼は多忙の合間を縫って髪形や体形、身体の癖を毎回役に合わせて変えてくる。横浜ほどの人気俳優であればスケジュールは数年先まで決まっているはずで、その徹底がどれだけ大変かは容易に想像がつくだろう。あらゆる関係者から「ストイック」と呼ばれる半ば狂的なまでの役作りをなぜ貫くのか、以前彼に聞いた際に返ってきた言葉は「自分は器用ではないから」だった。