ウクライナの兵士として戦い、サッカーの現場に戻ってきた記者の壮絶な2年半 ユーロ取材と戦場での悲痛な想い
【またウクライナでサッカーを取材できるよう祈っている】 むろん、以前のようにフットボールの祭典や楽しい雰囲気、スタンドのファンのエネルギー(個人的にはコロナが蔓延してから初だったが)を、心から楽しむことはできなくなっている。キーウが爆撃されたとか、長い停電が始まったとか、妻がテキストメッセージを頻繁に送ってくるたびに、集中が削がれたことを認めるほかない。また戦地の友人がチャットで話しかけてくると、完全に無視することなどできなかった。 どんな状況にあろうとも、人生もフットボールも続いていく。ただし、今も続くウクライナの自由を勝ち取るための戦いには、終わりが見えてほしい。強くそう願っている。 それが現実となったあかつきには、ドイツやポーランドではなく、キーウのオリンピスキ・スタジアムで代表戦やチャンピオンズリーグの試合を、また取材できるようになるだろう。かつては多くの"ピッチ上の激戦"が繰り広げられたシャフタール・ドネツクのドンバス・アリーナも、いずれ修復されることを祈っている。 未来のことなど、なにひとつわからないが、少なくとも私はそう信じている。 ボフダン・ブハ Bohdan Buha/キャリア20年超のスポーツジャーナリスト。『Ukrayinskyi Futbol』、『Sport-Express』、『Top-Football』といった国内のメディアを経て、2000年代から『UEFA.com』のウクライナ担当に。過去4度の欧州選手権を現地で取材している。ロシアの侵攻が始まってから、ウクライナ軍の兵士となり、激戦地バフムートなど前線も経験。複数の負傷により昨夏に除隊、回復とリハビリを経て、ジャーナリズムの現場へ復帰した。1982年生まれ。キーウ出身。
ボフダン・ブハ●取材・文 text by Bohdan Buha