月の裏側の資源開発に不可欠な電力をわずか3機の人工衛星がワイヤレスで供給するアイディア
月の裏側での宇宙開発がまた一歩進展する契機になるかもしれません。 モントリオール理工科大学の研究グループは、月の裏側で活動するのに必要な電力を確保する方法として、地球と月とのラグランジュ点(※)のひとつ「L2」に3機の太陽発電衛星(Solar Powered Satellite: SPS)を配備し、月面に設置した受信設備へワイヤレス給電する方法が最適解だとする論文を発表しました。 今日の宇宙画像 ※…ある天体が別の2つの天体から受ける重力や遠心力と釣り合って、安定できる点のこと。この場合、別の2つの天体は月および地球となり、人工衛星はラグランジュ点近傍の閉じた軌道(ハロー軌道)を周回する。
■レアメタルが存在するとされる月の裏側
地球から直接観測できない「月の裏側(far side of the moon)」には、小惑星や彗星が衝突してできたクレーターが数多く存在します。地球にはあまり存在しない白金族元素(レアメタル)の鉱石が存在することから、将来の月の裏側の資源開発が期待されています。 その一方で、月および地球の潮汐力により月の公転周期と自転周期は一致する状態にあるため、月の多くの地域では完全な暗闇が約14日間続きます。このため、月の裏側の宇宙開発では夜間のバッテリー切れによるミッション中断を防ぐように電力を確保することが重要な課題のひとつです。 たとえば、アメリカ航空宇宙局(NASA)は月の表面に送電網を敷く研究を行っています。2007年の報告書によると、月面有人基地の建設を実現するためには0.1~10kmの距離で50kWほどの容量の電力を送る必要があり、この要件を満たす送電網の材料には銅線が適しているといいます。しかし、材料となる銅は地球から運搬することが想定されることに加え、月の表面を取り巻くレゴリスが送電網を摩耗する恐れがあるため維持費がかさむのだといいます。今回の研究を主導するモントリオール理工科大学のGunes Karabulut Kurt博士は、送電網の敷設はコストの面で実現が難しく、ワイヤレス給電の研究を始める動機となったと述べています。