月の裏側の資源開発に不可欠な電力をわずか3機の人工衛星がワイヤレスで供給するアイディア
■電力供給に光空間通信を利用
研究グループが想定するワイヤレス給電は「光空間通信(Free-Space Optical)」を応用したシステムで、太陽光を利用して電気を得る太陽発電衛星と、光エネルギーを電気エネルギーに変換するパネルで構成されています。月面に設置したパネルに向けて太陽発電衛星からレーザー光を照射し、レーザー光を電気に変換することで、夜間の月面でも電気を得ることが可能となる仕組みです。 研究グループは、レーザー光の発振器の開口径を50m、レーザーを受光するパネルの直径を1mと仮定してシミュレーションした結果、L2周辺のハロー軌道に3機の太陽発電衛星を配備すれば月の裏側への給電を100%カバーすることが可能であることが明らかになりました。また、太陽発電衛星の数を減らしてどの程度の時間、月の南極への給電を行えるのかをシミュレーションしたところ、3機だと衛星がハロー軌道を1周する8日間すべてで給電をカバーできたのに対し、1機だと44.56%、2機だと88.6%しかカバーできなかったことから、配備する衛星の数は最低でも3機が望ましいという結論に至りました。
■2026年実施予定の「アルテミス3」ミッションでの実証も期待される
2026年に実施される予定の有人月面探査ミッション「アルテミス3(Artemis III)」では、月の南極周辺への着陸が目標として掲げられています。Kurt博士によると、月の公転軌道に対する自転軸の傾斜角は6.68度と低いために、月の南極周辺では場所によってほぼ太陽の光を受け続ける「白夜」と、ほぼ闇の状態が続く「極夜(きょくや)」が存在するため、提案するワイヤレス給電の実験に適しているのだといいます。 Kurt博士は宇宙開発・天文学ニュースサイト「Universe Today」のインタビューに対し、「今後は現実により近いモデルに焦点を当てたい」と述べており、レゴリスの影響を考慮するなどして研究を進めたいとしています。 Source Image Credit: NASA/NOAA, Donmez & Kurt(2024), Universe Today – Wireless Power Transmission Could Enable Exploration of the Far Side of the Moon B. Donmez, and G. K. Kurt – Continuous Power Beaming to Lunar Far Side from EMLP-2 Halo Orbit NASA – Lunar Surface-to-Surface Power Transfer NASA – Artemis III: NASA’s First Human Mission to the Lunar South Pole NASA – Diode Laser Satellite Systems for Beamed Power Transmission Dalhousie University – Moon metals: New research considers what lies below the moon’s surface
Misato Kadono / sorae編集部