怪談、執念…つむいだ「恐怖」の99話 白石加代子の朗読劇「百物語」が大阪公演で終止符
身の毛もよだつ怪談、日常の裏側に潜む狂気、底なし沼へと引きずり込む愛の執念…。「恐怖」をテーマにさまざまな「怖い話」を読み聴衆を惹きつけてきた白石加代子の朗読劇シリーズ「百物語」。平成4年から22年かけて99話目を読み終えて以降もアンコール公演が続いてきたが、21日の大阪公演でついにシリーズが完結する。「女優として大切なもののほとんどを百物語から教えていただきました」。感謝の思いを込めて、シリーズ最後の舞台に立つ。 【写真】百物語「干魚と漏電」の一場面 平成4年、ミニシアターの先駆けである東京・岩波ホール(令和4年閉館)で産声を上げた「百物語」は、白石が早稲田小劇場(現SCOT)を退団後に新たな挑戦として始めた朗読劇だ。約20年所属した劇団で演じたのはギリシャ悲劇など様式的な舞台が大半で、「百物語で使うような『日常的な動き』を上手にできる自信は最初はなかったの」と振り返る。 ライフワークとして続ける中で、地の文は素に近い状態で読み、せりふ部分は役が憑依したように演じるスタイルを確立。上田秋成「雨月物語」や坂口安吾「桜の森の満開の下」、宮部みゆき「小袖の手」など古今の名作を白石流の世界観で変幻自在に立ち上げてきた。 怖い話は苦手だというが、「やっぱり素晴らしい物語には、いざなわれる」とも言う。全99話の中でも「一番怖くてすてきだと思った」のが、初代三遊亭圓朝作の怪談話「牡丹灯籠(ぼたんどうろう)」だ。ほれた男の元に幽霊になっても通う美しい女の話で「三世も四世も昔から、恋い慕い、生き代わり死に代わり憑きまとっている」というせりふに戦慄した。「前世だけじゃなくて、三世も四世も昔から…って怖くない? いくら逃げても永遠にだめなのよ」 26年に99話目の泉鏡花「天守物語」を読み終えたとき、「本当にほっとして、これで(他の)芝居が思う存分やれると思った」という。だが、2年ほどたった頃、自宅の本棚に並んだ百物語の台本に呼ばれているような気がした。「ひとたび開いてみたら、恋しくて、懐かしくて」。そして28年に始まったアンコール公演も、今回ついにラストとなる。 「これはオフレコだけど」と含みを持たせて、「82歳になったの」。ちゃめっ気たっぷりに笑うが、近年は「舞台に出ると絶対にレベルを落とすまい、と思って体が動いちゃうんだけど、終わった後に疲れがどっとくるようになって」と吐露する。1時間超の作品の上演が難しくなったことに気付いた「百物語」プロデューサーの笹部博司が、「そろそろやめようか」と提案した。