2歳児に一日6時間スマホ…!ルポ・アプリ育児に頼る親たち「日本語覚える前に英語教育」驚きの主張
WHO(世界保健機関)のガイドラインでは、1歳未満でのスマホの閲覧は推奨されていない。だが、日本では1歳児の3人に1人がインターネットを日々利用する環境に置かれており、そのスクリーンタイムは次のようになっている。 「そ、そこはやめて!」セックス、違法薬物…毒親に苦しめられる少女たち「生々しい実態」写真 1時間未満 48.5% 1~2時間未満 29.5% 2~4時間未満 17.9% 4時間以上 4.1% これは【前編:スマホを手放せない幼児「戦慄の保育現場」ルポ】でも紹介した論文の調査結果だ。そしてここ数年、育児の多くがアプリによって行われるようになっている傾向があるという。 近著『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)は、こうしたスマホ育児の実態に光を当てたルポルタージュだ。この本から引用する形で、アプリに取って代わられた育児の実態について見ていきたい。 保育園の先生方は、必ずしもスマホの利用がいけないとは考えていない。スマホにはスマホのメリットがあるが、親による直接的な育児にはそれでしか育めない能力というものがある。先生方が懸念しているのは、何でもかんでもアプリに取って代わられることによって、後者の能力が育たなくなることだ。 ◆「泣き止みアプリ」で掃除機の音 本書で取材した保育園の園長は次のように話す。 「最近の親御さんがよく使っているのが『泣き止みアプリ』です。小さな子はよく泣きます。そんな時、アプリを起動させると、掃除機の音だとか、ビニールの音だとか、さまざまな画像とともにそうした音が流れる。すると、子どもたちはその音や動画に注意を引きつけられるのでピタリと泣き止むのです。 もちろん、親御さんが悩んでそれを使用しているのは分かります。ただ、子どもは何か言いたいことがあって泣いているのです。親にしてみれば多少面倒であっても、手をかけてあやしたり、子どもの望みを理解して叶えたりすることで、愛着関係が形成されて、心の成長が行われる。しかし、アプリがやるのは、そうしたことをすべて無視して、ただ機械的に泣き止ませるだけなのです。日常的にそのような育てられ方をしている子には、そうではない子との違いが生じることが少なくありません」 育児の一部を代用してくれるのは「泣き止みアプリ」だけではない。【前編】で紹介した「寝かしつけアプリ」の他にも「お歌アプリ」「ぐずり防止アプリ」など無数にある。 先生方によれば、こうしたアプリと日常的に接している子は、他の子より情緒が不安定になっていることが多いという。ちょっとしたことでパニックになる、他の子に手を上げる、物を壊す、お昼寝をしない……といったことが起きているらしい。 園長は言う。 「園で見ていると、明らかに子どもに問題が生じていると感じることがあります。でも、なかなか親には言えない。年配の先生が言えば『先生の頃とは時代が違います』と切り捨てられるし、若い先生が言えば『子育ての大変さを知らないのに』と憤慨される。そうなると、私たちも何も言えなくなり、その子の〝特性〟として片付けなければならなくなるのです」 このような親は、日常生活に関することだけでなく、教育に関することまでアプリで代用する傾向にあるそうだ。 ある園で保護者向けにアンケートを取ったところ、日に5~6時間もスマホを見せている家庭が一定数いた。2歳児の子どもを持つ親は、次のように言ったという。 「うちは家にいる間は基本的にスマホを見せています。6時間くらいはスマホを使っています。子どもには好きな動画を見せていますが、親としてやらせているのは知育アプリです。パズルなどをやって知力を伸ばすというものです。また、英語のアプリ、計算のアプリなんかもやらせています」 この親はできるだけ早いうちからネイティブの英語を聞かせたり、知育アプリをやらせたりするのが良いと信じ込んでいるようだった。 先生はこう助言した。 「子どもの頭を良くするのは重要です。でも、お子さんはまだ2歳になったばかりで、日本語すらしゃべれていません。それなのに親が日本語で話しかけず、何時間も英語のアプリを聞かせていたらどうなるのでしょう? 知育アプリだって、ちゃんと歩いて他の子たちと遊べるような年齢になってからでもいいのではないでしょうか。今、やらなければならないのは、親ができるだけ直に接して愛情と豊かな言葉を注いであげることだと思います」 親は「分かりました」と答えて帰ったが、先生が見る限りアプリの使用頻度は減るどころか、増えているようだった。実際、3歳になってもほとんど話ができず、他人とも関われない。 ◆「うまく遊べる自信がない」 そこで先生はもう一度面談の機会を設け、アプリの使用を減らしてはどうかと提案した。すると、親はこう答えた。 「私は子どもとうまく遊べる自信がありません。どうやっていいか分からないし、思い通りにいかないとすぐに怒っちゃう。だから、私なんかが遊ぶより、アプリに任せたほうがよっぽどいいと思うのです」 そしてこの親は、今使用しているペット育成アプリのネットでの口コミがどれだけすごいかを延々と語りつづけたという。 このことを踏まえて、先の先生は次のように話す。 「今の親は、自分でもスマホを日常的に使って育った世代です。だから、アプリに任せておけば安心という考えを持っている人が少なくありません。自分が育てるより、アプリに育ててもらったほうが合理的という考えです。彼らは『アプリで子守歌を聞かせたほうがいい』『私が言葉を教えるより動画を見せたほうがいい』と言います。そういう考えがベースにあるので、私たちが育児にはアプリで代用できないこともたくさんあるという話をしても、なかなか受け入れてもらえないのです」 使い方によっては、アプリは素晴らしいものになるだろう。だが、使う年齢や方法を間違えれば、発達を阻む要素になりかねない。先生はその点を心配しているのだ。 しかし、育児に関するアプリは日に日に増えており、育児サイトでも数えきれないくらい紹介されている。開発する側にしてみれば、使われれば使われるほど利益になるのだから、そう仕向けるのは当然だろう。だが、親がそれに踊らされてしまえば、しわ寄せがいくのは子どもだ。 先生は言う。 「親御さんの中でも、特に自信のない方のほうがアプリに依存するように思います。自分に自信がないから何でもかんでもアプリ任せにするのです。一旦それをはじめると、その後もずっとアプリに頼るようになる。卒園してもスマホから逃れられない子どもの中には、一定数そうした親御さんを持つ子がいるのも事実なのです」 子どもたちがどのように育つのかについては『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』に詳しく述べた。 今、先生方が警笛を鳴らしているのは、スマホやアプリそのものではなく、その適切な使い方を親がきちんと理解していないことについてなのだ。だが、それを教える場はほとんどないと言っても過言ではない。 もしかしたら自治体等が開催する「両親教室」や「ペアレンティング・プログラム」でこうしたことを今以上に詳しく教える機会を設ける必要があるのかもしれない。 取材・文:石井光太 ’77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。
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