ひと月の宿泊費だけで44万円…それでも「大学入試合格」のため大峙洞へ=韓国(2)
(1の続き) ■私教育対策、百薬無効…「不安」に注目すべき 地方であればあるほど、大峙洞(テチドン)に代表される学区との格差を体感する。忠清圏のある一般高校を出て、今年ソウルの大学に入学したAさんは、「近年は修能(大学修学能力試験。全国一斉に行われる共通の大学入学試験)で大学に入学しようとする人の割合が高まっているが、地方の予備校は大半が内申中心で、入試についてはよく知らない。学校の授業も入試とは程遠い。高3生で学校の授業を受けている子は数えるほど」と語った。Aさんはまた、「(修能を準備する)上位圏の子たちは、長期休みにソウルに部屋や寮を確保して大峙洞の予備校に通ったり、大峙洞の予備校の問題を手に入れて解いたりしている。1人ずつ国語、英語、数学などの科目の担当を決めて、オンライン中古市場で大峙洞の試験用紙を入手してきて、みんなでそれを回し読みしながら勉強するというやり方」だと語った。 大峙洞の光景は、政府の私教育(塾、予備校、習い事。公教育と対をなす概念)軽減対策を無意味にする。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権は昨年、予備校で問題を解く技術を身につけた受験生だけに有利な問題、いわゆる「キラー問題」を修能から排除すると述べた。また「私教育カルテル」を根絶するとして、時代人材などの有名入試予備校に対する大々的な税務調査を実施してもいる。イ・ジュホ副首相兼教育部長官は昨年6月、「私教育費軽減対策」を発表した際に、「過度な私教育で生徒、保護者と教師がみな大変な中、予備校だけが利益をあげる状況を根絶するために、公正な修能評価を確実に実現する」と表明した。同長官は、昨年10月には国会教育委員会が実施した国政監査の場で、「私教育カルテルをこれ以上根付かせないようにする」と公言してもいる。 しかし大峙洞の例が示すように、私教育の過熱現象はさらに激しくなっている。昨年、小中高生が支出した私教育費は27兆1000億ウォン(約2兆9500億円)で、2021年の23兆4000億ウォン、2022年の26兆ウォンに続き、3年連続で最高値を記録した。 『修能ハッキング』の著者で教育評論家のムン・ホジンさんは、私教育過熱現象の背景には公教育に対する不信の積み重なりがあると診断する。ムンさんは、「修能は、教育課程の目標を遂行したかとは関係なくなり、問題を解く訓練を通じた『パズル合わせ』試験になってしまっており、公教育で教えている内容との連係も崩壊している。同時に、学校は教える場所というより、勉強してきた内容を評価し記録する場所だと考えられている。特に地方の公教育については、生徒を教える力量が学校ごとに大きく異なるという認識が強い」と指摘した。そして「こういった状況にあって『学校で誠実に勉強すれば入試で良い結果が得られるだろう』という教育当局の主張は、保護者や子どもたちにとっては信頼することが難しい。結局のところ、各自が私教育機関に行って学校で学ぶ内容をあらかじめ学習したり、自ら修能に備えたりするようになる」と語った。同氏は「『公教育課程だけを忠実にやっていては、入試で合格できない』という、まん延する不安に注目すべきだ」と助言した。 ■大学の序列化ではなく公教育の正常化を 一方では、公教育にとどまらない変化が伴わなければならないとの意見も提示されている。「修能の創始者」と呼ばれる高麗大学のパク・トスン名誉教授は、「大学は修能の成績だけで受験生を序列化して選抜したりせず、高校で適性をよく探り開発した受験生を選抜できるよう、入試制度を改善する必要がある」とし、「根本的には大学が序列化され、さらに上位大学を出た人が良い報酬を受け取る体制を緩和しなければ、私教育熱は収まらないだろう」と助言した。 だが受験生の保護者たちにとっては、政府の「私教育たたき」は余計なお世話であり、専門家たちの指摘は空虚だ。「私も子どもたちを予備校に通わせていますが、公教育は信頼できず、私教育やスター講師に頼らざるを得ない状況は本当に気に入りません。でも、こうしないと『インソウル(ソウルにある大学に入ること)』できないシステムになってしまっているじゃないですか」。子どもが高3になって大峙洞のホテルの一カ月間の宿泊に月400万ウォンを使っているLさんはこう愚痴をこぼす。Lさんはまた、「極端な話、一般高校で1位になっても予備校に行かないとソウルの大学に行けないんです。政府は教育制度を精巧にして生徒の適性を探ると言っていますが、実際には私教育ばかりを太らせる制度へと変質してしまったのではないでしょうか」とも述べた。 私教育の力なしには大学を受けることが難しい現実にあって、大峙洞の予備校街の明かりは夏休みになっても消えることはない。受験生たちが大学入試に成功して、あるいは気に入らない結果に終わって抜けた空間も、新たな受験生たちで埋まるはずだ。Lさんのような保護者の訴えは、いつまで繰り返されなければならないのだろうか。 キム・ミンジェ、パク・コウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )