都知事が都営バスの24時間運行を表明、公共交通の24時間化は必要か
東京都の猪瀬直樹知事が、2013年中にも都営バスの一部路線を24時間運行する意向を表明しました。 政府の産業競争力会議(議長・安倍晋三首相)でも「アベノミクス戦略特区」の例として言及されており、その実現が現実味をおびてきました。ただし、労働環境の変化など課題も多く、賛否さまざまな意見が出ています。
バスだけでは意味がない?
今回、試験的な24時間運行が検討されているのは、都営バスの渋谷~六本木間。一方、都営地下鉄については、運行時間の延長を検討するだけにとどまっています。 理由のひとつが、深夜に行う保線作業です。ニューヨークの地下鉄は、多くが複々線(1路線あたりの線路が4本)であるため、深夜にはこのうち2本で保線作業を行い、別の2本に電車を走らせることで24時間運行を実現しています。東京の地下鉄は複線(1路線あたりの線路が2本)ですから、ニューヨークのようにはいきません。 都営バスだけが24時間化しても、はたして満足な移動手段になり得るのかと疑問に思う人も多いでしょう。そもそも、東京の交通網のなかで都営バスの占める比重はさほど大きくありません。都営バスの1日の利用客数は約55万人。これに対して都営地下鉄は約228万人、東京メトロは約622万人にのぼります(いずれも2011年度、東京都交通局/東京メトロ発表)。既存の都営バス路線網だけでは、期待する効果が見込めない可能性もありそうです。 これについては、海外の事例が参考になりそうです。ロンドンでは「ナイトバス」、パリでは「ノクティリアン」と呼ばれる深夜バスが運行されており、公共交通の24時間運行が実現しています。これらの深夜バスの特徴は、地下鉄や一般鉄道の代替となるように路線網が構築されていることです。これらについて、東京都交通局では「将来的には検討の対象となりうるが、まずは試験運行の結果を見てからの判断になる」と話しています。
労働環境の変化や治安で課題も
公共交通24時間化には、経済的なメリットを指摘する声があります。 国際カジノ研究所所長の木曽崇氏は自身のブログで、18時以降の夜の経済が「未開拓な成長分野」だと指摘しています。経済学者の池田信夫氏は、公共交通24時間化について「世界の主要都市では当たり前のこと」と自身のブログで述べ、経済成長のために人口の都市集中を加速させるべきだと主張しました。猪瀬知事も「グローバルな社会で都市の交通機関のあり方がどうなのか」が重要だと4月26日の記者会見で指摘し、世界的な経済競争のなかで東京の魅力をいかに高めるかという視点で検討されていることがわかります。 一方、ブログやツイッターなどでは、公共交通24時間化で夜勤や残業が増え、労働時間がさらに延びるのではないかと懸念する声が聞かれます。