デビュー35周年の「有栖川有栖」に7人の作家が「7つの謎」を捧ぐ! 有栖川も物語の舞台に立つトリビュート作品など(レビュー)
〈江神二郎〉シリーズや〈火村英生〉シリーズなど本格謎解き小説の傑作を書き続けている有栖川有栖。『有栖川有栖に捧げる七つの謎』は、有栖川のデビュー三五周年を記念したトリビュート・アンソロジーだ。参加した作家を収録順に挙げると青崎有吾、一穂ミチ、織守きょうや、白井智之、夕木春央、阿津川辰海、今村昌弘の七名である。 どの作家も有栖川作品へ限りない敬意を表した短編を書いているが、その中でも白眉は青崎の「縄、綱、ロープ」だろう。犯罪社会学者・火村英生と推理作家・有栖川有栖のコンビを登場させた同編は、登場人物の会話から手がかりの検証、幕切れの雰囲気まで〈火村英生〉シリーズを完璧に換骨奪胎したものになっている。“ロープ状の何か”を探る犯人当てならぬ凶器当てから始まる謎解きは鮮やか。先達の作品に対する挑戦という点では白井の「ブラックミラー」が秀逸だ。アリバイものの名作『マジックミラー』を題材に、創意に富んだトリックを生み出している。有栖川作品中、一冊限りの登場となったシリーズ探偵に着目した阿津川の「山伏地蔵坊の狼狽」も、意欲的な企みで楽しませる。 海外古典ミステリ作家へのリスペクトを込めたアンソロジーも編まれている。『密室と奇蹟 J・D・カー生誕百周年記念アンソロジー』(創元推理文庫)は、不可能犯罪を書き続けたジョン・ディクスン・カー(カーター・ディクスン)のトリビュート企画。収録作中、最もユニークなのは田中啓文の「忠臣蔵の密室」だ。カーと忠臣蔵、という取り合わせに唖然とする。 トリビュート企画は作家に留まらず、漫画作品もその対象になっているものがある。『サイボーグ009トリビュート』(河出文庫)は石ノ森章太郎の漫画『サイボーグ009』の誕生六十周年を記念した書き下ろしアンソロジーだ。注目はミステリ作家・辻真先の「平和の戦士は死なず」である。辻が脚本を手掛けたアニメ第一シリーズの最終話を自らの手でノベライズしたという、アニメファンが歓喜するような一編だ。 [レビュアー]若林踏(書評家) 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
新潮社